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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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30/50

小さな荷役士

「こいつがトビーだ」


 翌日。

 荷役士に引き合わせるということで、ギルドの受付に向かう。

 そこで紹介されたのは――確かに小僧だった。


 背は俺よりやや低く、癖の強い栗毛を無造作に伸ばしている。

 体の線は細いが、それなりに筋肉があるようだ。

 年の頃は十代前半ってところだろう。


「よろしく、トビー。私はリーネで、こっちがリゼ」

「リゼです。よろしくお願いします」


 こちらが挨拶をすると、トビーはあからさまに不満そうな顔をした。


「こいつらに付けって? 女じゃねーか。ほんとに戦えるのかよ?」


 ふてぶてしい物言いだが、怒る気にはなれない。

 命を預ける相手が華奢な女二人となれば、そりゃあ抵抗感はあるだろう。


「おいトビー!」


 カウンターからボルクの声が飛ぶ。


「ギルドが認めた腕前だ。それを信用しねぇってのはなしだぞ」

「分かってるって、ボルクさん。でもよ……騎士だっていう方はともかく、その姉ちゃんはどうなんだよ?」


 仕方がないとはいえ、ずいぶん下に見てくれるじゃないか。

 何と返すか考えたところで、視界の端にリゼの横顔が入る。


 ……あー、かなり怒ってるな。表情はいつもどおり無表情だけど、俺には分かる。


 これから一緒に動く相手だ。初手から関係にヒビが入るのは避けたい。


「トビー。私が戦えるかどうかは、森の中で見てから判断してくれていいよ」


 冒険者の信頼は腕っぷしで証明する。

 これならリゼも納得してくれるだろう。


「戦いぶりを見て不安なら、その時点で帰ってもらって構わない」

「いいのか? 前金を貰うオレの丸儲けだぞ?」

「いいさ。戦う姿を見て駄目というのなら、それはこっちの実力不足ってことだからね」


 肩をすくめてそう言うと、トビーの口元ににやりとした笑みが浮かぶ。


「へぇ……その自信、本物かどうか見ものだな」


 ここまでは想定内。が、トビーは一段ギアを上げてきた。


「まあ、もし偽物だったとしても、一緒に仕事してやってもいいぜ。条件があるけどな」

「条件?」

「おう。あんたのでけーおっぱい、揉ませてくれたら考えてやるよ」


 ……なるほど。これがボルクの言っていたクソガキってやつか。

 初対面の女相手に言う台詞じゃない。しかもこれから一緒に命を張るってのに。

 隣でリゼの怒気がさらに深まる。表情は変わらないが、空気がひりついた。


 とはいえ――胸を揉まれるくらい俺にとってはどうということもない。

 むしろ、こういう性格の奴に付け入るには積極的に使うほうがいい。


「もし期待外れだったら、この胸を好きにするといいよ」


 あえてさらりと言ってやる。


「なっ、リーネ!?」


 リゼが素で声を上げたが、無視して続ける。


「さらに、おまけをつけようか。期待に応える働きをしてくれた時も触っていいよ。成果次第になるけど、直でもいい」


 そう言ってやれば、トビーの目が見開かれた。


「マジで言ってんの? オレ、冗談半分で言ったんだけど……」


 この反応で分かった。クソガキはクソガキでも、一線はちゃんと理解している。

 もしこいつが使える奴だった場合――精神的に縛り付けるには、俺の身体を餌にする価値が出てくる。

 勝手なイメージだが、こういう奴は約束を違えることを嫌うはずだ。


「ここまで女に言わせたんだ。せいぜい頑張ってもらうよ。いいね?」

「お、おう! 言ったからな! 約束だぞ! オレの力を見て驚くなよ!」


 とまあ、俺としては微笑ましい程度のやり取りだったのだが――リゼはご立腹したままだった。


「……後で、ゆっくりお話があります」


 小さな声で釘を刺される。

 ……また説教か。

 ボルクはと言えば、ぽかんと口を開けて俺を見ていたが、やがて頭を振って溜め息をついた。


「嬢ちゃんがそれでいいってんなら、俺からは何も言わねぇ。約束の重みくらいは、トビーも分かってるだろうさ」


 そう言うと、帳面を引き寄せ仕事モードの顔になる。


「じゃあ本題だ。荷役士には前金として銀貨一枚。これは仕事一件分の契約金だな」


 銀貨一枚。ブルタスク一体の討伐報酬と同額だ。

 結構高いが、それだけの価値が荷役士にはあるんだろう。


「討伐報酬そのものは、あくまでお前らのもの。分け合うのは素材の買い取りだ。皮、脂、骨、肉、その他もろもろ。その売却代金を、パーティーと荷役士で山分けする」

「討伐が上手くいけば、余裕で前金分を払っておつりが来るってことだね」

「そういうこった。それと――」


 ボルクは帳簿をめくり、指である行をなぞる。


「今は春先だ。越冬で備蓄が削れて、ギルドとしても肉の買い取り額を少し上げてる。稼ぐには悪くない時期だな」


 アントン親方も言っていた。春先は売り時、と。

 領主とギルドが組んで肉を備蓄しているという、半分は商売、半分は飢饉対策みたいな事業らしい。


「だからこそオレの出番ってわけだな」


 トビーが、にやりと笑う。


「あんたらが倒してくれりゃ、オレが銀貨に変えてやる。獲物全部、持ち帰ってやるよ」

「そっか。期待してるよ、トビー」

「おう! 任せとけ!」




 ギルドでの面通しが終わると、すぐに討伐依頼を受けて森へ向かった。

 今日はお試しで半日だけ。午前中に軽く回って様子を見る。

 森の縁まで来たところで、最後の確認をする。


「荷物は全部預けていいんだよね?」

「それがオレの役目さ。戦うなら背負い物は邪魔だろ」


 トビーは当然のように答えた。

 荷役士は獲物を運ぶだけじゃなく、パーティーの荷物も持つ。

 戦闘のときに投げ捨てればいいとはいえ、最初から持たないに越したことはない。


「……リーネにああまで言わせたのです。最低限以上の仕事はしてもらいますからね」


 リゼのご機嫌ナナメは継続中だ。

 ここに来るまでの道中からして、トビーへの当たりは強い。


「おーこわ。リーネ姉ちゃんが言い出したことだし、そんなピリピリしないでくれよ、リゼ姐さん」

「リゼで結構。姐さんは不要です」

「へいへい」


 真面目すぎる護衛と、調子に乗った小僧。相性が悪いのは当然だ。

 その辺りを上手く調整するのは俺の役目だろう。


「よし、じゃあ森に入ろう。リゼが先行して、私が援護。それでいいよね?」

「はい。それでいきましょう。トビーは戦いの邪魔にならない位置取りを」

「分かってるって!」




 森の中を進み始めてそれほど時間も経たないうちに、ブルタスクが姿を見せた。

 茂みを割り、地面を蹴り、牙を剥いて突っ込んでくる。


 初めて見たときはビビったが、今は違う。

 昨日の戦いと、それまでの稽古で叩き込まれた動きが体の中に残っている。


 リゼが突進をいなし、一息で前足を断つ。

 俺が滑って崩れた巨体の後ろへ回り込み、露出した首筋へ剣を振り下ろす。狙いは脊髄。

 骨を断つ感触が手に伝わり、ブルタスクの体が痙攣したあとに、徐々に力が抜けていく。


 これじゃあ戦いというより、ほとんど作業だ。

 グリムパップに囲まれたときのほうが、よほど厳しかった。


「すげえな……こりゃ、本物だ」


 背後で、トビーが感嘆混じりの息を漏らす。

 一発見せてやれば、この手のガキはすぐ手のひらを返すってもんだ。


「血抜きはオレも手伝う。後ろ脚にロープ結んでくれ」


 トビーがそう言うので、指示どおりにロープを括り付ける。


「これでいい?」

「おう。じゃあ、あの枝に回して……よし、引き上げるぞ」


 近くの太い枝にロープを通し、ぐい、と引く。

 ブルタスクの巨体が、ゆっくりと持ち上がる。


「すごい……これが荷役士の力か」

「……悔しいですが、見事ですね」


 俺とリゼが見上げていると、トビーが歯を食いしばりながら声を上げた。


「驚くのは後だ! 早く首切ってくれ! 腕だけで吊るすのはそこそこキツい!」

「ごめん。すぐやる」


 解体用ナイフで首筋に切れ目を入れると、勢いよく血が噴き出した。

 トビーはそれが落ち着くまでロープを離さない。持久力もなかなかのものだ。

 血抜きが終わり、血だまりに土をかけて簡単に後処理をする。そしてゆっくりとブルタスクを地面に下す。


「この大きさなら、二頭まではいけるな」


 トビーはそう言って、ブルタスクの前脚の根本を掴み、ぐっと肩に担ぎ上げた。

 俺より背の低い子供が牛並みの巨体をひょいと担ぐ。目を疑いたくなる光景だ。


「……魔法も極めれば、ここまで行けるのか」


 思わず漏らすと、トビーが鼻で笑う。


「オレなんてまだまだ。すげー奴は馬車も持ち上げるんだぜ」

「マジ?」


 リゼに目を向けると、真顔で頷いた。


「騎士団専属の荷役士に、馬車を担いで川を渡った方がいました。橋が流されていた時のことです」

「……世界って広いね」


 身体強化系の魔法――その中でも対荷重特化となれば、ここまで行くのか。

 俺も『身体強化』は使えるが、さすがにこれは真似できない。

 だからこそ、荷役士に銀貨一枚の前金を払う価値があるのだろう。


「剣を振り回す腕もなかなかだったけどな。オレはこっちで食ってくさ」


 そんなやり取りを挟みつつ、森の探索を続ける。

 もう一体ブルタスクを見つけ、同じように仕留めて血抜きをする。


 トビーは有言実行で、二体のブルタスクを両肩に担いだ。

 ふらつくものの、しっかり歩いている。

 その姿は、まさに怪力だった。


「さすがに重いな……今日はこれで終わりにしねぇ?」

「十分な稼ぎだね。ここで切り上げようか」


 午前でブルタスク二体。解体なしで丸ごと持ち帰り。

 そりゃあ、儲かるはずだ。


「では、私が殿としてトビーの後ろに付きます。リーネは先頭を」

「了解。トビーを護衛する形だね」

「オレは身軽になっても戦えねえからな。しっかり守ってくれよ!」


 そうして森での討伐を終え、街へ帰る。

 このブルタスク二体を解体場に持ち込めば、どれだけの金になるのか。


 ――解体場に行くのが、楽しみになってきた。

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