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追放された雑用係、如何にして最強に至ったのか?  作者: 藤原 智


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十八話 帰城

 カイルたちとの別れの余韻に浸っている暇はなかった。


 目の前では、魔貴族が時を止める魔法を展開し、その支配の中で魔族たちが一斉にこちらへ向かってきていた。


 俺はクロードの剣を強く握り締める。

 背後では、エリシアの詠唱が始まっていた。

 腰を落とし、一歩踏み込んだ。

 

 その瞬間だった。

 自分の身体ではないような感覚が、全身を駆け抜ける。

 まるで背に羽でも生えたかのように、身体が軽い。

 次の瞬間には、俺は魔族たちの間をすり抜けていた。

 速すぎる。

 いや、自分でも制御できないほどに。


 思った場所へ踏み込んだつもりなのに、身体はその先へと滑るように走り抜けていく。

 力に振り回されている。そんな感覚だった。

 その時、エリシアの叫び声が響いた。


「アルト!回避して!魔法の制御ができない!」


 振り向いた瞬間、背筋が凍った。

 エリシアの前方に、見たこともない魔法陣が展開されていた。

 それは平面ではなかった。空間そのものに重なるように、五層にも及ぶ立体魔法陣が浮かび上がっていたのだ。


 あまりの規模に、血の気が引く。

 だが考えるより先に、身体が動いていた。

 まだ制御もままならないまま、それでも俺は一瞬でエリシアのもとへ辿り着き、その細い身体を抱き上げる。


「放て!」

「うん!」


 そのやり取りの直後、魔貴族もまた異変を察したのだろう。

 時止めの術式を解除し、咄嗟に自らの周囲へ幾重もの防御魔法陣を展開する。


「クソがっ!!」


 そして、次の瞬間。

 エリシアは、魔法陣に向けて光を放つ。


「ビッグバン!」


 俺はエリシアを抱えたまま、魔王城の外へ向かって駆けた。

 立体魔法陣の中心を、一本の細い赤い線が上から下へと貫いていくのが見えた。

 

 城外へ飛び出した直後、凄まじい衝撃が背後から叩きつけられる。


「ぐっ!」


 とんでもない暴風に身体ごと吹き飛ばされた。


 直後に轟音。

 天地がひっくり返ったのかと思うほどの大爆発が起こり、地面が激しく揺れる。砂礫が、石片が、木片が、容赦なく降り注いできた。


 俺は咄嗟にエリシアを抱え込み、その上に覆い被さる。

 しばらくして、ようやく衝撃が収まった。


「エリシア、そのままでいろ」

「う、うん」


 恐る恐る顔を上げると、エリシアもまた目を丸くしていた。


「これが、先生たちの力」


 思わず、そんな言葉が漏れた。

 俺はクロードに少しは近づけたつもりでいた。

 だが違った。

 あの人たちは、まだずっと遥か先を歩いている。


「ねえ、どうなったのかな?」

「分からん」


 俺たちはゆっくりと立ち上がり、魔王城の方を見た。

 城は、半分、消し飛んでいた。

 いや、崩壊していたなどという言葉では足りない。

 城だけじゃない。その周囲一帯までもが吹き飛ばされ、地形そのものが抉られている。


 俺たちは周囲を警戒しながら、慎重に近づいていく。

 だが、動くものはなかった。

 視界に入るのは、無数に転がる魔族の死体だけだった。


 城内も確認した。

 そこに残っていたのは、魔貴族の顔半分ほどの残骸だけ。残りは跡形もなく消し飛んでいた。


 カイルたちの仇は討った。

 それなのに、胸の奥は少しも晴れなかった。

 勝ったはずなのに、喜ぶ暇などなかった。

 外からは、いくつもの足音が近づいてきていたからだ。


「エリシア」

「うん。テレポート」


 視界が一瞬で真っ白に染まる。

 次の瞬間、俺たちは別の場所に立っていた。


「ここは?」

「えっと」

「王城か?」

「たぶん」


 周囲を見渡す。


 豪奢な柱、高い天井、赤い絨毯、玉座へと続く一直線の空間。

 間違いない。

 王城の謁見の間だった。

 だが、今は誰もいない。

 いるのは、俺とエリシアだけ。

 現実感のない光景だった。


 その時、物音を聞きつけたのか、扉が開いた。

 外から兵士が顔を覗かせ、次の瞬間、鋭い声を張り上げる。


「誰だ!」


 俺たちは一瞬、どうしていいか分からなかった。

 状況だけ見れば、忍び込んだ侵入者にしか見えない。

 だが、その警戒はすぐに別のものへと変わった。


「な、何故、貴方がたが?」


 俺たちは何が起きたのかをかいつまんで説明した。

 すると兵士は顔色を変え、「すぐに陛下へ」と言い残して部屋を飛び出していった。


 静けさが戻る。


「皆の力は、とんでもなかったな」

「うん」

「俺たち、追いつくとか言ってたんだよな」

「だね。まだまだ遥か先」

「ああ、本当にそうだ」


 やがて、再び扉が開いた。

 先ほどの兵士が戻り、緊張した面持ちで告げる。


「陛下がこちらに向かわれます」


 そう言うと兵士は扉の脇に立ち、姿勢を正した。

 俺たちはすぐに膝をつき、頭を垂れる。

 重々しい足音が響く。

 扉が大きく開かれ、王が入室した。


 玉座へ向かわれるのかと思ったが、その足は止まらない。

 王はそのまま俺たちの前まで歩み寄り、足を止めた。


「顔を上げよ」


 その言葉に従い、俺たちはゆっくりと顔を上げる。

 目の前に立っていた王は、険しい表情の中にも確かな安堵を滲ませていた。


「戻ったか。それで、どういう状況じゃ?」


 俺たちは、起きたことをすべて話した。

 魔王城へ至るまでのこと。

 カイルたちが既に辿り着いていたこと。

 彼らが魔王城周辺の魔族を殲滅しながら進んでいたこと。

 そして、魔貴族との戦いと、その結末まで。

 王は最後まで黙って聞き、やがて深く息をついた。


「必要なものはあるか?」


 その問いに、俺は迷わず答えた。


「陛下。兵を差し向けることはできませんか?」


 王の目が細くなる。


「他国への備えがある」

「承知しております。ですが、勇者カイル達が切り開いた道を、このまま閉ざすわけには。今が好機であります。陛下、ご決断の時かと」


 王の表情が変わった。

 短く息を呑むと、すぐに傍らの者へ命じる。


「そこの者」

「はっ!」

「緊急につき、参内せよと皆に伝えよ」

「はっ!」


 兵士は一礼し、駆け足で部屋を去っていく。

 王は改めて俺たちを見た。


「アルト殿、エリシア殿。今すぐ返答はできぬ。後日になるが、よいか?」

「はっ」

「しかし、会うたびに立派になっていくのう」

「陛下のご厚意がなければ、今の私たちはございません。この御恩、忘れたことは一度たりともございません」


 王は静かに頷いた。


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