40 黒面に映る心
真っ黒な服。洋服も和服も関係なく、全てが黒に染められる。雨戸は締め切られ、光も入らない。ろうそくの光だけが、朝も夜も輝き続ける。
喪が明けるまで、ろうそくの灯を消してはいけない。最低限の会話以外の言葉も慎むため、妹が部屋に来ることはなかった。
静かに、ただ静かに時間だけが過ぎていく。その間、やることも特にない。
薄暗い中、じっと座っていた。その手に、墨で染めたお面を持って。
表に出る時にはこれをつけるようにと言われたが、もう表に出ようとも思えなかった。自分にその資格はない、と。
何の模様もない、真っ黒なお面。まるで、雪の今の感情を映し出すように。
少し気を抜くと、また泣いてしまう。姉や妹の前では泣きたくない。彼女たちの父親を奪った自分に、泣く資格なんてないのだ。
49日後、喪が明けると、兄の継承式がある。久しぶりに着るのは、お祝いの柄が入った黒い着物。一応黒とはいえ、そんな明るい気分にもなれなかった。
上段の御簾の中、本家の人間だけが並んで座る。中央にいる兄は、いつもの青い差し色が入ったものではなく、真っ黒な着物を着ていた。
本来、継承式というのは、先代が生きている時に行う。だから、多少の会話や宣誓がなされるはずだった。
しかし、先代が不在の継承式は、本当に静かなもの。
全ての動作に説明も宣誓もなく。兄だけが動くのを、大勢の忍びたちが見守る。
異様な空気感だった。まるで、葬式の延長線のような。
「本日より、霧崎蒼刃が当主となる」
兄の号令。堂々としている。でも、父より威厳は足りない。兄妹の中では最年長で、幼い頃からそうなるようにと教育を受けてきた。とはいえ、まだ24歳だ。
「この身が朽ちるその日まで、忍びの誇りを持って、皆を率いる。従う者、私の影となり、ともにあれ」
忍びたちが無言で頭を下げていく。そして、御簾の中にいる本家の人間も。深く一礼をして、新たな当主に忠誠を誓う。
この瞬間から、父は当主ではなくなった。
「雪姉様、日向ぼっこですか?」
儀式の後、詩乃が歩み寄ってきた。
「お着替えはなさらないんですか?」
まだ儀式の時の同じ姿のまま。お面は取っているが、白梅の柄が入った黒い着物は、どこか窮屈にも見える。
「……うん」
雪は短く答え、また庭に視線を戻す。
「暖かくなってまいりましたね」
そう言いながら、詩乃が隣に座った。雪の手に、詩乃の手が重ねられて。温かくて、悲しかった。
「もうすぐ桜の季節ですね。今年も一緒にお花見しましょうね」
「……うん」
明るく話しかける詩乃に、もやっとしてしまう。彼女だってつらいはずなのに。頑張って立ち直ろうとしているところだろうに。父を亡くしたばかりで、こんな風に笑えるものなのか。
「ごめん、詩乃」
そう残し、雪は部屋に入る。
「ゆっくりお休みください」
詩乃の声が、どこか遠くに聞こえた。




