千里からの二つのお願い④
「今まで母さんのために、ゆき姉の練習に付き合うために取ってたから、なんか、自分の中では取りがしっくり来てなかったんだよなー」
「え? あれで?」
「うーん……上手いこと言えないんだが、自分の中では納得のいく取りではなかったんだよ。ただ、この前、ゆき姉から言われたのが、取りが自立したってさ。今は自分のために取るかるたに変わってるのかなって」
「この大会から、ニュー四条くんのかるたが見られるってこと?」
「そういうことになるかな。高校選手権の時のイメージで見ると、がっかりするかもしれないけど……」
「ううん。すっごい楽しみ! いやー、明日、当たるの楽しみだな~」
千里は両頬を両手で抑えて、くねくねと体を動かして、テンション高く振舞う。
「そもそも、当たるかどうかわからねーぞ」
5対5の団体戦なので、勝ち上がれば当たるというわけではない。抽選会では光輝と対戦のリクエストが多かったが、チームとして勝利をめざすのでれば、A級トップクラスの選手である光輝はいわゆる捨て駒の選手を当てる方が得策である。それは千里も同様だ。
「それもそうだけど、あたしはやっぱり、せっかく岐阜まで来たんだし、四条くんと取りたいな~」
「お前、本当にぶれねーなー」
「伊達に7年間、四条くんと取るのを夢見て、かるたを続けてません!」
えっへんと胸を張って言う千里。浴衣越しではあるが、出るところは出てる体型で、けっこういろいろ目立つので光輝は目のやり場に困った。
そして、スマホにRIMEのメッセージが表示され、仙崎から招集がかかった。明日のメンバー決めや作戦についてのミーティングがあるためだ。
「悪い。そろそろ、部屋に戻らないとだ」
「そうなんだ。ごめんね、長いこと引き止めちゃって」
「いいってことよ」
「あと、今日は過去のことや強さの秘訣みたいなのも聞けてうれしかった。四条くんの秘密を知れてよかった~」
今、千里が何の気なしに言った秘密という一言に光輝がハッと思い出す。
「お、おい、頼むから、女風呂の露天風呂についてのことは……」
もとはといえば、覗きスポットを発見してしまったところを目撃されたのがいろいろ話すきっかけだった。依然、弱みは握られたままである。
「わかってるよ~。たまたま、見つけちゃっただけでしょ?」
「え?」
「だって、あたし、最初から四条くんの様子見てたから」
「ちょっと待て。様子見てたって、どこから?」
「四条くんが男湯の大浴場から出てきて、ここの自販機で飲み物買うところからかな」
「最初からじゃねーかよ」
千里は最初からお見通しで、今回の光輝の過去話やらを聞きだしたわけだ。とんだ小悪魔だなと光輝は頭を抱えて、ロビーから去ろうとする。
「あはは、ごめんね。あ、そうだ。四条くん、本当にRIME、送っていい?」
「ん? そりゃ、連絡先交換したんだから、別にいいぞ?」
「いいのね? あたし、うざいぐらいメッセージ送るけど、いい?」
「どこまでがうざいのラインなのかわからないけど、お互い時間が合えば、いつでもどうぞ」
そう言って、光輝は去り際に手を振りつつ了承する。
「やった~~~!! 四条くんとRIMEできる~!!」
千里は諸手をあげつつ、ピョンピョン跳ねて喜びを体現する。
「四条くん、また明日ね! おやすみ~~~!」
千里がぶんぶんとオーバーリアクションで手を振りながら、おやすみの挨拶をすると、光輝も控えめに手を振って返す。
ちなみに千里とのRIME交換やメッセージのやりとりを軽はずみに了承したことを光輝は後悔することになるのはもう少し先の話であった。




