千里からの二つのお願い①
なんだかんだで楽しめた開会セレモニーと同時に行われた交流会が終わり、それぞれ手配されたホテルへチェックインする。大阪代表は後藤先生含む男子部屋に3名、女子部屋が読手の殿山含めて7名という割り振りとなっている。女子部屋が畳敷きの和室の大部屋なのに対し、男子部屋はおかげさまでシングルのベッドを広々と使えるうえに部屋も広く快適だ。
光輝は部屋に入るなり、ベッドにダイブするが、すぐに夕食の時間で大勢の食事が用意できる宴会場に移動のようだ。岐阜の名産の鮎、飛騨牛などがふんだんに用意された食事……というわけではなく、普通のビジネスホテルと変わらないありふれたメニューであった。
食の細い光輝はあんまり旅館やビジネスホテルのてんこ盛りに用意された食事は好きではない。とはいえ、好き嫌いがあるわけではないので、必要な量だけ食べて、宴会場を後にした。
食事を終えて、しばらくの後、大浴場を借りての入浴タイムとなる。露天風呂もあるのだが、光輝はこういうところでも特別感に浸ることなく、部屋のバスユニットのシャワーで済まそうとするが、せっかくだからと後藤先生や仙崎に連れられて行くことになった。
大浴場には他にも滋賀の百合澤、京都の杉本啓介らがおり、露天風呂の湯舟では先ほどのグループリーグ抽選の結果や「どこで、どういう練習してるの?」みたいな話で盛り上がった。
光輝は大浴場を出て、ロビーの自販機のところに行くと、購入した冷えたスポーツドリンクをぐびーっと飲んで、ソファーに腰掛けて、一息ついた。
「ふぅ、こりゃ、朝風呂も悪くなさそうだなー」
最初は乗り気じゃなかった光輝だったが、ほどよい湯加減の露天風呂とその風情が大層、気に入った様子。
「朝なら風呂上りにコーヒー牛乳っていうのも乙なものだし、なにより、この地上10階から一望できる景色がたまんねーや」
と、高いところから眺める景色に浸っていると、光輝はあることに気づく。そして、遠目ながら見てはいけないものに気づいてしまう。
「ん? あれ、もしかして、露天風呂か? ここから、女湯の方まで丸見えじゃんかよ」
「本当だねー。よくは見えないけど」
「いや、マジでやべーな、これ」
「うんうん。本当にやばいね」
「さっき、百合澤や仙崎とかが女湯覗くイベントしに行こうぜとか言ってたけど、まさか、それを断った自分が見つけるとはなー」
「あたしもこんなところから見られるなんて、盲点だったよー」
「なぁ、本当にな…………えっ?」
光輝はさっきから自分の独り言とは別の声が聞こえていることに気づいた。
その声の方向に振り向くと、青の乱菊模様の旅館浴衣を着こみ、普段は下ろしている赤茶色のセミロングの髪を結い上げた一色千里の満面の笑みがあった。
「なにしてるの?」
整った顔立ちから能面のように満面の笑みを崩さずに光輝を問い詰める。
「え、え~っと、これは…………」
光輝は言い逃れできないこの状況で必死に言い訳を考えるが、いい弁解の言葉が思い浮かばない。
「まぁ、そんなことは置いといて…………どう?」
置いといていいのか? なんて、思う光輝に千里は袖をひらひらさせながら、自身の浴衣姿を見せつけてくる。
「ど、どうって……?」
必死に言い訳を考えていた光輝は今の千里の問いかけの意図が一瞬、理解できず言葉に詰まる。
あと、いつもとは違う千里の艶やかな浴衣姿に言葉を失ったのも事実だ。
「もう! 今、馬子にも衣裳とか思ったでしょ!」
特に感想を言わない光輝に千里はむくれるように言い放つ。
「あー、ごめん! そういうことか。え~っと…………」
これはこれで難題だなと光輝は言葉を選ぶように数秒、考え込む。
「は~い、時間切れ~」
「いや、短すぎるだろ。まだ、10秒も経ってねーじゃねーか!」
「あたしを待たせたことには変わりないよ~。さ~て、四条くんには何をやってもらおっかな~?」
千里は人差し指を口にあてて、にぃっと小悪魔な笑みを浮かべて言う。
「なにせ、女湯の露天風呂を覗こうとしてたもんね~?」
「ぐぅっ…………」
光輝は痛いところを突かれ、さらに弱みを握られた。これはまずいと本能的に感じ取るが、いい打開策が見つからない。
「花山さんにバレたら、なんか、やばそうだよねー?」
「や、やめろ! それだけはマジでやめてくれ! お、お願いします! なんでもしますから!」
そう言って、プライドという言葉を捨てて、土下座をかます光輝に、
「ん? 今、なんでもするって言ったよね?」




