総文祭大阪選抜チーム 強化練習終了~帰りの電車の中で~(光輝視点)
3日間に及ぶ総文祭の大阪選抜メンバーの強化練習が終わった。今は春日山高校から帰る電車の中だ。
「いい練習だったわねー」
隣に座るゆき姉がぐーっと伸びをしながら、ご機嫌な様子で言うと、俺も静かに「うん」と頷いて、同意を伝える。
通学以外で3日連続でどこかに行くとか、すげー久々だったから、かなり疲れた。普段はインドアで出不精な俺にはなかなかハードな日々だった。
正直、だるいのだが、この3日間はその疲労感が心地よくも感じた。
いや、この3日間だけじゃない。総文祭のメンバー選考会に参加し始めてから、俺の悪くない高校生活に色が加わったように思う。正直、学業とバイトとかるたの両立はなかなかにしんどい。
でも、今年の春までは休日は家でだらだらとゲームをするだけの日々で、かるたもかささぎ橋のガキやおばちゃんたちの面倒を見て、ゆき姉の日々の練習に付き合うだけだった。かるたという自分のアイデンティティをアウトプットする機会がなく、悶々としながら過ごしていたが、今は自分を出せているのを実感する。
こんな機会を与えてくれた山上会長や下山さん、あと、くっそくだらねー動機で背中を押してくれた親父にも感謝しなきゃな。ま、親父には絶対に言わねーけど。
なにより、この3か月ぐらいは時間が経つのが早く感じる。これが充実してるってことなのかな?
「!?」
なんて、俺が思ってると、左肩にずしっとした重みを感じ、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「……すー……くー……すぅ……くぅ……」
視線を左肩の方へ向けると、ゆき姉が俺の左肩に頭を預けて寄りかかって寝息を立てていた。お互いの顔が近く、閉じた瞳から伸びる長い睫毛、ほんのりメイクした頬が映り、柔らかそうな唇が振れてしまいそうなほどの密着した距離感に少しどぎまぎしてしまう。
だが、すぐに思考が冷静になった。
(思えば、この3日間、すごい動いてたよな。無理もないか…………)
この3日間、ゆき姉は俺含めて、メンバー全員の試合をできる限りチェックすることを優先していた。正直、かるたの試合は実際にするよりも見るだけの方が頭を使うため、頭の疲労は相当だったはずだ。
帰宅してから、俺との練習後も夜遅くまで他のメンバーの実力や特徴の把握に務めていたようだ。
いつもは日付が変わる前に寝るのに、ここ数日は日付が変わってからもゆき姉の部屋の明かりがついていたのが俺の部屋からも確認できた。
まあ、俺も無駄に夜更かししてたってことなんだけど……
さらに2日目と3日目は俺のために朝早くから弁当も作ってくれた。ここ、数日、寝不足で疲労もあっただろうに、最後までそんな面は噯にも出さずに強化練習に帯同した。
ゆき姉は純粋に大阪選抜メンバーのために動いてくれたんだろうけど、基本的には俺が孤立しないように、他のメンバーと打ち解けられるように振舞っていたと思う。そのおかげでチームの雰囲気もよくなったし、俺も楽しかったから、全然いいのだが、やはり、疑問が浮かぶ。
ゆき姉はなんで、俺のためにここまでしてくれるんだろう?
いつも練習に付き合ってくれるから? でも、それは俺も同じでお互い様だろう。
それか、俺があまりにも心配だから? 過保護すぎるだろう。俺ももう18歳だ。
単純に幼なじみの付き合いだから?
まさか、俺のことが…………
なんて、勘違いな妄想に耽ってしまうのは女子に飢える男子校に通う男子高校生ゆえの性か。
ゆき姉の動機なんて、知ったこっちゃない。これだけしてくれたんだから、まずは結果で恩返ししなきゃならない。今はその一点だけを考える。
「ありがとな、ゆき姉。俺、ちょっと、がんばるわ」
ただ、そう独り言を口にした。
その独り言にゆき姉が「ん……」と反応する。しまった起こしたか……
「……もう……みーくん……そんなの……食べちゃ、ダメ…………」
俺はゆき姉の夢の中で何を食べているのだろうか?
そんなことが気になり出したら、さっきまでの勘違いした妄想はどこかへ吹き飛んだ。
でも、心の奥底にゆき姉の中で俺はどう映っているのだろう? という思いは残っていた。
ちなみにその後、花山邸での試合ではひと眠りして復活したゆき姉に対し、眠気と疲労が残っていた俺は10枚差で負けとコテンパンにやられてしまい、総文祭本番までに不安の残る内容となった。




