総文祭大阪選抜チーム 強化練習2日目
さて、強化練習は春日山高校へと場を移し、2日目に入った。この2日間は4試合ずつ、がっつり行う。午前の部と昼休憩をはさんで、午後の部でそれぞれ2試合行うというスケジュール。なお、光輝は強化練習後も真の強化練習が一つ待っている。
午前の2試合を終えて、昼休憩に入り、各々が近所のコンビニに買い出しに行ったり、持参した昼食を出す中で……
「はい、みーくん。お弁当つくってきたよ~♪」
結姫がにっこりと満面の笑みで光輝に弁当箱を差し出す。それを見た春日山の部員たちもにこにこと尊みのようなものを感じて、二人をおかずにして、昼食をほおばっていた。
世の男子がうらやむであろう結姫の色とりどりの手作り弁当を見た光輝の反応はというと、
「ごめん、いらない」
と、素っ気なく返した。
それに結姫がガーン! といったリアクションを取ると、周りの春日山の部員も悲鳴のような声をあげた。
「なんでー!? お姉ちゃんのお弁当、いや?」
結姫が涙目で「みーくんはそんなこと言わないよね?」ビームを放ちながら訴える。
「ちげーし! そんながっつりした弁当食ったら、この後の試合に影響出るから嫌なんだよ!」
そんなことを言いながら、光輝は事前に購入しておいたブドウ糖味の経口ゼリーを取り出す。
「で、でも、それだけじゃ、午後、持たないでしょ!」
「あと、もう一つ、予備にとってある」
と、光輝が言って、自分のバッグからすっと二つ目の経口ゼリーを取り出して見せる。
「普段もコンビニのお弁当やおにぎりばっかりじゃない! そんな食生活とチョイスばっかりしてるから、すぐお金なくなるし、こんなに細いんでしょ!」
「ガリガリなのは認めるが、弁当やおにぎりはバイト先の廃棄だから、金かかってねーよ」
「ん? そういや、光輝ってバイトしてるんやろ? 月何万ぐらいもらってんの?」
二人のやり取りに割って入った仙崎。なお、コンビニの唐揚げ弁当をがっつりと食べている。これが結姫の想像する高校生男子の食欲だろう。
「月によるけど、週3か週4で働いて、7、8万ぐらいかな」
「へぇ、けっこう稼いでるやん」
「というか、みーくん、それ以外にもおじさまからの仕送りもあるでしょ?」
「う、うん…………」
結姫からの指摘に光輝は途端に旗色が悪くなった。
「じゃあ、けっこう余裕ありそうやん。何に使ってるんや?」
「その、ゲームとか…………」
「なんのゲームかな? ねぇ、みーくん?」
結姫がジト目で質問すると、
「ソ、ソシャゲの、ガチャです…………」
光輝は観念したように声を裏返しながら、口を割った。
「推しのキャラのガチャやイベントで走ってる時とかは1週間でバイトの給料、溶かします…………」
反省した猿のように猫背になりながら、しょんぼりとしたテンションで懺悔を口にする。つい1週間ちょっと前にかるたで目黒クイーンに勝利した面影は微塵もない。
それを聞いた一同からは「あかんすよ!」っていう声が飛ぶなど、非難轟々である。
「これでも、マシになったのよ。一時期、食事抜いたり、私の家にご飯たかりに来たりしたこともあったし……」
「いやー、四条君は成人したら、ギャンブルとかやらせたらダメですねー」
と、後藤先生が呆れた口調で言う。
「はい、高校卒業後も私が手綱を握っておきませんとね」
「俺はゆき姉の馬か何かかよ」
後藤先生の言葉に対し、結姫がにっこりとしながら言うと、光輝が憎まれ口で返す。
「明日は食の細いみーくんのために俵のおむすびにして、小分けにして食べれるようにしとこっと」
「え? 明日も作ってくるの?」
「だって、みーくん、少しでも目を離したら、偏った食事しちゃうのがよくわかったもん」
「いや、ありがたいんだけど、さすがに俺とゆき姉の分も作ってもらうのは…………」
光輝がバツの悪そうな顔をする。
「なんだ、そんなことかー。別にお母さんの分も一気に作っちゃうから、問題ないわよ。気にしてるんなら、私に心配されないような食生活を心がけなさいよね」
そんなやり取りをしながら、二人で結姫お手製の弁当を広げる。
そんな様子を見て、周囲は尊みを感じる二人の仲睦まじい関係性を最初は恋人か何かかと疑っていた。しかし、この2日間で段々、「もう夫婦じゃねーか」から、今は「おかんかよ」って感じに変わっていた。
「あー、もう、いいや」
大体、弁当箱の中身を3割残した状態。
「あ、仙崎。お前、まだ入る? 残ったおかずやるよ」
「えー! いいんか? 花山さん、いいんすか?」
「この暑さだと、夜には傷むだけだしね。みーくんがいいなら、私はいいわよ」
「マジっすか!? じゃあ、いただきまーす!」
仙崎が弁当箱に残ったおかずを手づかみでぺろりと平らげる。仙崎はコンビニの唐揚げ弁当も食べたばかりだが、まだ余裕がありそうだ。
ちなみに光輝も普段なら、これぐらいの弁当は完食できる。ただ、それはこの後、何も予定もなく、ぐーたらできればの話。この後、競技かるたという畳の上の格闘技を2試合こなさなければならない。なので、空腹もダメだが、腹は少し膨らませておくぐらいには胃に何か入れた状態をキープしたい。
考えてみれば、インターバルも短く、決勝までは長丁場となる普段の大会において、手軽に持ち運べ、10秒チャージを売りにし、胃の負担も少ない経口ゼリーはかなり効率的で実用的な食事である。
光輝のように性格だけでなく、身体もナイーブな人にとってはなおさらだ。
ただ、そんな光輝の世話をする結姫の普段着の姿を見て、それまで高嶺の花の存在だと感じていた各校の部員は印象がガラリと変わっていた。2日目には光輝はもちろんだが、結姫とも和気藹々と打ち解けれるようになっていた。
こうして、昼も2試合を取り、計4試合、練習2日目が終了した。




