強化練習から帰宅後の練習にて(後編)
結姫にそう言われて、光輝は少し頭を捻る。
「自分ではそんなに変えたつもりないんだけどなー。というより、あんまり変えないようにしてるんだけど……」
正直、高校選手権の決勝で目黒クイーンと対決した時、あのあたたかなものに包まれて、札に導かれるように手が伸びた感覚、あれがあまりにも理想的すぎた。
だが、あの感覚を追い求めようとすればするほど、自分じゃないような感覚で、その再現が困難なことに気が付き、今までの取りを崩さないようにしつつ、自分の新たなスタイルを模索している最中。
というのが、光輝自身が考える現状である。ただ、結姫は少し見方が違った。
「えーっとね、なんか、取りが自立したよねって」
「それって、俺がゆき姉から手が離れたってやつ?」
「うーん、ちょっと、違うかな。なんか、取り方がわがままになったわね」
結姫が発した独自の表現に光輝がきょとんとする中、結姫が続ける。
「語弊がないように言うと、みーくんって、今まで月子さんや私の練習の付き合いのために取ってたじゃない? でも、今は自分のために取ってるなって感じがする」
「はぁ、なるほど…………それって、いいことなのかな」
「いいか悪いかは私にはわからないわ。でも、前には進んでると思う」
前に進んでいる。
強くなってるかどうかはわからないが、これは光輝も高校選手権の後に自覚していたことだ。これまでかるたの表舞台から離れていた理由はずっと小5の時の対人トラブルかと思っていた。しかし、それは一過性のものに過ぎなかった。結姫との毎日の練習に付き合い始めた時から、かるたへの思いや情熱は戻っていた。
ただ、大会などの表舞台から遠ざかっていた本当の理由は、大会に出るといやでも気づいてしまうから。大好きだった母親である四条月子がいないことに……
そんな思いに囚われて、ますます表舞台への足は遠ざかり、そんな臆病な自分に後ろめたさを感じて、いつの間にか7年の月日が流れていた。
だが、母・月子の死をようやく受け入れ、その足枷から解放された今、光輝はようやく自分の足で歩き始めた。まさしく、結姫が言う自分のためにかるたを取れるようになった。
「この数か月でみーくんは新たな自分を見つけて、新たな強さを身に着けてる。だから、今回の総文祭でもみーくんはまた成長できると思うの」
「まぁ、成長できるかどうかはともかく、今は純粋に楽しみだけどね」
「最初は岐阜に行くの面倒って言ってたじゃない。そういう風に思えるだけでも人間的にも成長してる証明でしょ?」
「いや、岐阜まで行くのは今でも正直、めんどい」
「やっぱ、人間、急には変われないのかしら」
人間、特に10代は表面的な部分は劇的に成長することがある。しかし、本質的に変わるのは困難だとわかった1日だった。




