総文祭大阪選抜チーム 強化練習開始!③
そして、暗記時間が終わり、お互いが一礼してから試合が始まる。殿山が直立不動の姿勢から、序歌を読み始める。
「なにわずにーーー、さくやこのはなーーー、ふゆごもーーりーーー……」
(へぇ、殿山さん、予選の時に比べて、だいぶ、よくなったなぁ……)
光輝がこの日の殿山が読み始めた序歌の声を聞いて、率直にそう感じたのだった。甲高い感じの音域が残っていた前回と違い、声も芯の強さがこもり、一つ一つの音を丁寧に深く読めている。読みのリズムが5(下の句)、3(余韻)、1(空白)、6(次の上の句)となるのだが、余韻の部分の3秒間でビリビリしたものが感じられなかった。光輝は前回、この部分が非常に気になって対応に苦労していた。
(よし、これなら、いつも通りの取りができそうだ……!)
いつも通り試合に臨めると、意気揚々と構えに入る光輝だったが……
パンパンッ!!
すると、結姫が突然、手を2回叩く。これは競技中、緊急時のために読みを止めるための合図だ。それに応じて、殿山も読みを止めた。
「はいはーい、ちょっと止めて。みーくん、なんか忘れてない? 総文祭は団体戦よ」
「あっ、もしかして、かけ声? やっぱりしなきゃダメ?」
「当り前じゃない。大体、序歌のあたりで他の県も一斉に『〇〇ファイトー!』とか言うんだからー。一つだけ静かだと浮いちゃうわよ」
結姫のその言葉に春日山の仙崎や桜女の山本のように団体戦を普段からしている選手はうんうんと頷く。
「それは仙崎に任せたらいいんじゃないの?」
「試合中は仙崎君でもいいけど、試合の始めぐらいは主将がしっかり決めないと、チーム全体の士気にも関わるわよ~」
「え~、俺、そういうキャラじゃないし……」
「何言ってるのよ。私だって、やったんだから、みーくんもやらなきゃダメに決まってるじゃない」
「光輝、お前、いつも相手陣攻めた時とか『入った!』って叫んでるやろ。あれ、めっちゃうるさいんやけど、あんな感じでええんやぞ」
「いや、あれ、気分乗ると自然と出るし」
光輝は仙崎がしれっと言ったことに『ていうか、あれ、うるさかったのか……』と思い、自分で勝手にショックを受けていた。
「あ、そういや、『大阪ファイト!』の後の返事はどうする? 桜女も金城大付も『ファイトー!』って返してたから、それでええよな?」
「私はそれで問題ないよ」
「それでいいと思う」
仙崎の提案に桜女・山本、金城大付・渡辺がそう返すと、
「森田もそれでええか?」
「う、うん。あーしもとりあえず、それでやってみる」
「まあ、無理に言う必要はないけどな。団体戦、慣れてへんヤツはかけ声で取りが崩れるのもおるから、気が散るようやったら、暗記に集中するのを優先した方がええわ」
団体戦はこれが初めてという森田に気を遣ってアドバイスをする仙崎。やはり、昨年の総文祭をはじめ、春日山でも団体戦を経験してることもあり、この辺の知識や実戦力は光輝よりも上だ。そこは今年、戦力が乏しい中で仙崎がいてよかったと結姫と後藤先生は感心した様子で目を細める。
「おい、俺も慣れてないけど、いいのかよ」
「光輝はそれぐらいで大きく取りは崩れへんやろ」
「みーくんは団体戦自体は小学生の頃に経験してるから、大丈夫よ。試合やっていくうちに慣れると思うわ」
「なんか、俺の扱いだけ雑じゃない?」
「みーくん、この際、目黒さんに勝ったことは置いておくとして…………あなた、それ抜きにしてもA級優勝してるんだから、みーくん自身の取りに関しては誰も特に心配してないわよ。この前も言ったけど、そろそろ、自分の立ち位置を自覚しないとね」
不満を漏らす光輝に対し、結姫がバッサリと切り返し、一同、その言葉に頷く。納得しかねる光輝だったが、多勢に無勢、渋々、引き下がる。
実際、光輝は高校生限定の大会とはいえ、A級優勝という実績ができた。さらにここ2年、無敗を誇っていた目黒クイーンに土をつけただけでなく、一色千里、上村望といった高校生世代でもA級で実績のある選手にも勝っての優勝だったため、余計に箔がついてしまった。結姫にそう言われるのも致しかたない。
「とにかく、やってみなさいって」
「あ、あぁ……わかったよ」
「ごめんね、殿山さん。また、初めから序歌、読んでくれるかしら?」
「はい」
「じゃあ、テイク2ね」
結姫がそう言うと、試合を取る人が一斉に構えに入り、殿山も読みの準備を始めた。




