高校選手権個人戦A級決勝 光輝VS.目黒クイーン⑦ 決勝、最終盤へ!
(ついに逆転したか……だが、ここから展開していかなければ、持ち札的にもクイーンにもまだ分がある)
試合を近くで見ている新条永世名人が冷静に分析する。ここで場にある札を整理しよう。
残り3枚となった光輝陣には右下段に「おおえ」、左下段に「かく」、左中段に「あけ」、一方の目黒クイーンの陣には右下段に「みせ」「こころあ」の2枚、右中段に「きり」、左下段に「あきの」の4枚という札の配列となっている。
続く78枚目に読まれたのは「かく」。光輝陣の左下段にあった札だ。この札をシュッと音を感じさせない取りで鋭く目黒クイーンが攻め取り、すぐに3枚セームに追いつく。送ったのは自陣中段にあった「きり」、光輝はすかさず、先ほど「かく」のあった左下段に置く。
そして、空札を何枚か挟んだ後の81枚目「あけ」も目黒クイーンが攻め取る。
(くそっ、先にそっちが出たか!)
光輝は目黒クイーンの左下段にある「あきの」に手を伸ばしたため、取ることができなかった。
これで目黒クイーンが再逆転し、光輝3-2目黒。果たして、目黒クイーンが選ぶ送り札はまだ決まっていない「こころあ」だった。
光輝はこの札を右下段に置いた。もう、札の間隔を空けるといった奇策はこの局面では用いない。純粋なスピードや出札勝負になるからだ。
そして、84枚目が読まれる。
「みせばやな~」
バチィンッ!!
「みせ」の「MI」と発するのが先か、後か、それぐらいの速さで光輝が目黒クイーンの右下段にあった「みせ」を払い飛ばした。再び光輝が追いつく。文面だけ見ていると、聞かずにフライングして取っているように見えるかもしれないが、ちゃんと、余韻と空白の間は競技戦から出ていない中で驚異的な反応と払いを見せている。
お互い譲らぬ接戦以上に、この浦安の間で繰り広げられる名人・クイーン戦のような最高峰の取りの応酬にギャラリーが息を吞む。
「誰も取れないだろ、あの『みせ』は…………」
ギャラリーからはそのような声が漏れたほどだ。
相手陣の札を取ったため、光輝が送り札を選択する。運命戦のことを考えると、長考したくなるところだが、今の光輝に迷いはなかった。左下段にあった「きり」を送り札に選択し、目黒クイーンは右下段にすかさず置いた。
自陣の左側が空いた光輝は右下段に「おおえ」の隣に並んでいた「こころあ」の札をさすがに離し、札を左上段の内側あたり、普段なら浮き札を置くような位置に移動させた。
ここで3枚の空札の後、88枚目「おおえ」を光輝がドンピシャのタイミングでキープ。ここでもギャラリーから思わず、「おぉ…………!」というため息のようなどよめきが漏れる。
光輝が目黒クイーン相手の大金星、さらに公式戦連勝記録のストップへ先にリーチをかけたのだ。周りがざわつくのも無理はない。
周囲のざわつきとは対照的に光輝は不思議と落ち着いていた。残った1枚の「こころあ」をすぐに右下段に移動させる。ころころと短時間の間に札を移動させるのはあんまりよろしくないが、そこはしっかりと暗記を入れ直す。
しかも、残った場にある3枚は「きり」以外、決まり字が決まっていない。「こころあ」に至っては「こころに」の友札がまだ残っている状態である。そのため、光輝としては攻めやすい状況ではある。
そして、2つ空札を挟んだ後、90枚目。
「ここ……」
光輝は相手陣にあり、同じK音の右下段の「きり」に一瞬、手を伸ばすも自陣右側に戻る動きを見せるが、すでに目黒クイーンが小さな手で囲い手を作って待っている。
果たして、出札は? ギャラリーも緊迫した面持ちで廣本専任読手の声を聞く。
「……ろにも~」
その瞬間、目黒クイーン、光輝の双方がパッと「こころあ」の札から囲っていた手を離した。これで「こころあ」は「こ」決まり。光輝としては重たい札になってしまった。
だが、光輝はおそらく、「こころあ」は読まれないのではないか、と根拠のない自信があった。これも右手に宿るあたたかい何かによる導きなのか…………
いや、これは大会出場のブランクこそあるが、長年やってきた競技のキャリアを通しての経験がはたらいたことによる勘だ。
意識を敵陣の「あきの」、「きり」の2枚に集中させる。「あ」札は他にも「あさぼらけあ」、「あし」が残っているため注意。「きり」は1字で取れるが、自陣に「こ」決まりとなった「こころあ」があるため、K音の聞き分けを上手くしつつトップスピードで攻めることができるか。
重心をやや左に傾けて(相手から見て右側)、相手陣右側を攻めつつ、自陣右下段に戻れるような体勢をつくる。
また、空札を何枚か挟みつつ、その間に「あし」なども出て、緊張感も高まるが、ここでうっかりと抑えないところはさすがはクイーン、それについていっている光輝といったところか。
94枚目が読まれる。
「きりぎりす~」
パシィッ!!
と、鋭く自陣を払ったのは目黒クイーン。光輝も手を伸ばしたが、自陣と相手陣の差で届かなかった。また、少なからず自陣の「こころあ」への意識もあったのもあって、若干、手が遅れた。これでお互い持ち札1枚の運命戦。残り1枚となった目黒クイーンは左下段に置いていた「あきの」を右下段へと移す。
この状況では周囲は否が応でもざわつく。目黒さやかがやはり、クイーンの貫禄を見せて無敗記録を伸ばすのか、光輝がそれを止める大金星をあげるのか、まさに両者の運命を左右しかねない運命戦となった。




