高校選手権個人戦A級決勝 光輝VS.目黒クイーン④ 届いた祈り。光輝、奇跡の復活!
「ふりゆくーものはー、わがみなり~けり~……」
空札の38枚目の「はなさ」の下の句を楠本専任読手が読む。そして、余韻1秒の後、光輝の右手がピクリと動く。
「かz…………」
シュッ!!
バチンッ!! パチンッ!!
「「「「!!」」」」
「……ぜをいたみ~」
楠本専任読手が決まりまで読み上げる前に目黒クイーンの陣に右と左で分かれてた「かぜを」「かぜそ」の札を音速、いや光速の渡り手で光輝が飛ばした。光輝は何食わぬ顔で飛ばしてしまった二つの出札を取りに行く。
(なんだ、今のは!?)
新条永世名人がそのように驚けば、
(今、四条くんの右手がキラキラしてた…………?)
(……なんですの、今の音の流れは?)
今の光輝の渡り手による取りを独特な表現で捉える千里と目黒クイーン。
(みーくん……?)
結姫も何が起きたかを把握できずにいたが、試合はその後も進んでいく。
39枚目「きみがためは」を目黒クイーンの陣でしっかり囲って奪いとる。さっきの「よのなかよ」のような無理な囲い手の動きではない。いつものように札すれすれのところで囲って、決まった瞬間にきっちりと抑える。さらに40枚目「はるの」もきっちりと3字、いや2.3字ぐらいのドンピシャよりも早めのタイミングで右上段を払い飛ばす。思えば、この試合、初めての連取を奪っていた。40枚目の時点で光輝17―10目黒と依然、目黒クイーン優位な状況には変わりないが、光輝の取りが見違えるように冴えてきた。
40枚目を過ぎたあたりで序盤の出札ラッシュの反動か、やや出札が落ち着く。追い上げムードに入っていた光輝にとっては水を差された格好になるかと思いきや、しっかり空札では手が止まる。いつものようにマイペースにしっかりと札を聞き分ける光輝の姿があった。
(なんだろ? 消えていく、俺の痛み、焦り、重圧…………あたたかい何かが、俺を包み込んでくれる…………)
光輝は妙に思考がクリアで、疲労どころか先ほどまで苦しんでいた右腕の痛みも感じなくなっていた。あるのはこの試合の場の札の状況、読手が発する読みの声、音の空気、これを聴き入れて、最適な取りをする動きを体で表現すること。
(まだ、枚数差はあるけど、痛みとか、調子とか関係ない! 俺とクイーンの実力差を考えれば、これぐらいの差は想定内だ。この無気力、無表情女に見せてやらなきゃならない。最後まであきらめずに取りに来るやつの、かるたの怖さ、醍醐味ってやつをな!)
そう心の中で叫んで、光輝は千里の方へ振り向き、微笑を浮かべる。
今の自分は7年前に光輝に必死でついていこうとしてきた千里と同じ立場だ。その時の怖さを光輝は覚えている。
今、振り向いて、無言でほほ笑んだのは千里に対するサインである。千里はそのサインに対して、無言でこくんとうなずく。
そして、結姫には光輝から何やらオーラのようなものを発しているように見えた。
(えっ、月子さん…………!?)
結姫が見ていたそのオーラは光輝を背後からやさしく抱きしめていた光輝の母親・月子の姿をしていたように映った。光輝の母親ということは、光輝の最大の理解者でもあり、最高の味方である。
42枚目「ゆら」を光輝が自陣でキープし、44枚目「やえ」は目黒クイーンに守られて目黒クイーンの持ち札がついに10枚を切った。
しかし、46枚目「おぐ」を右中段、50枚目「よも」を左中段で光輝が守る。51枚目、「ち」決まりとなった「ちぎりき」では目黒クイーンが1字札にきっちり反応して手を伸ばすが、光輝がわずかに速さで上回り、右上段を払ってキープする。その攻防のやり取りで普段は人形と揶揄される無表情の目黒クイーンがわずかに目が見開き、眉をひそめた。
ここまで、光輝14-9目黒と依然、目黒クイーンがリードと優位は変わらない。だが、着実に差は縮まっており、今の1枚で勝負の潮目が変わった。




