高校選手権個人戦A級決勝 光輝VS.目黒クイーン② 圧倒するクイーン、悲壮感漂う光輝
さて、A級の決勝は序盤から出札ラッシュ。10枚目までにほぼ出札が出るという展開で、いきなり目黒クイーンが3連取スタート。
平常運転というべきか、出札の決まり字に少し早いタイミングですぅーっと手を伸ばし、音もなく払いとばし、淡々と取りを重ねていく。
光輝はそれぞれ右下段にある4枚目「ちは」、8枚目「さ」をなんとか守るが、連取はできず、この時点で光輝23-19目黒と、じりじりと差を広げられる。
12枚目で目黒陣の右中段にある「やまが」を一直線で払いとばすが、いかんせん、右腕の痛みの影響か取りが冴えない。特に目黒陣の左下段と中段に手が伸びないのが痛い。相手陣に手を伸ばした後の自陣への戻り手や左右の切り返しの動きも鈍い。本調子でも取れない札はあったが、本調子であればもう1枚か2枚ぐらいは取れててもいい札はあった。
「よのなかよ~」
光輝が自陣の右上段の内側にある出札を囲ってキープ。ただ、少しフライング組に触ってしまった。
(ラッキー。『よのなかは』だったら、お手つきだったな、今の……)
普段なら、すれすれのところまで囲えるが、そのレベルまですると、右腕に負担がかかってしまう。早く聞き分けたというより、たまらず手を下したという形で拾った。
出札に恵まれた分、ここから波に乗っていきたいところだが、相手と今の右腕の状態がそれを許さない。この出札ラッシュの中で光輝が1枚を取るたびに目黒クイーンは2連取、3連取と取っていく。
26枚目が読まれた時点で光輝21-14目黒とすでに7枚のビハインド。目黒クイーンはどれだけ差が開いても人形のように表情を崩さず、目線で配列を追う程度に暗記を繰り返し、出札に対して、決まり字のところでドンピシャで音速の速さで取っていく。汗一つかかず、澄ましたような、冷めたような表情で淡々と試合を進めていく。
一方の光輝は普段のマイペースな様子がない。場の札に対する鋭さを増した目線は変わらないが、明らかにいつもよりも取りに精彩を欠き、試合運びも粗い。右腕を庇うためか、負担をかけないような動きをして、逆に変に力がかかっている。
いつもよりも若干ではあるが体力の消耗がきつく、時折、「ふぅ」と深く息を吐いて、呼吸を整える場面も見受けられる。
(四条くんの右手がキラキラしてない……やっぱり、右手の状態がよくないのかな?)
(みーくん…………)
光輝の試合を固唾を飲んで見守る二人。結姫はただ、心配して見守るが、千里は先ほどの試合によって起きたケガということもあり、罪悪感に苛まれている様子だ。その様子を悟った結姫は千里の手を優しく握り、
「大丈夫。一色さんのせいじゃないわ」
「はい。でも…………」
「おとにきく~」
「うらぁっ!!」
光輝が28枚目、自陣左下段の「おと」を雄たけびを上げて、懸命にキープ。態勢を立て直そうとするものの、再び目黒クイーンが自陣の29枚目「なにし」、30枚目「わび」、31枚目「おも」を自陣でキープし3連取。そして、空札を1枚挟んだ後に、
「あらざらん~」
スパッ、そんな音とともに「あらざ」の札が飛んでいく。
「…………」
光輝陣中段にある出札をスパッとクールに払ったのは目黒クイーン。
「くぅっ…………!!」
3字決まりの札に対して、痛みで取りのスピードを制御できない光輝は正確な速さで取りに来る目黒クイーンに対抗できない。
普段ならスピード自慢に対して、ドンピシャのタイミングで3字札や4字札の決まりの長い札を鮮やかにキープするのは光輝の方だが、今回ばかりはクイーンにお株を奪われる格好となっている。
そして、この34枚目の「あらざ」で4連取。この時点で光輝20-10目黒と10枚差がつく。会場はもちろん、配信で見ている人たちからも「やっぱり、クイーンか」という空気になってくる。
痛みに喘ぎながらも1枚、1枚を取って、懸命に食いつこうとする光輝だが、1枚取っても目黒クイーンは連取、連取で淡々と差を広げていく試合展開には悲壮感が漂う。
(今の『あらざ』も払いの精度が粗い。ちらっと見ただけだが、これまでの試合では友札の分かれや3字札など、もう少し鮮やかに上手く取っていた。しかし、この決勝は強引で直線的な取りが目立つ。
最初はクイーンの取りに対して、スピードで対抗するようにしたのかと思っていたが、先ほどの敵陣左側の手が伸び切っていないところを見るに、利き腕の右手になにかアクシデントが起きていると考えられるな。手の出し方は悪くないだけに万全のコンディションでやれれば、もう少しマシな試合展開になっただろうに。不運だな)
競技委員長として会場の試合を俯瞰しつつ、戦況を見ながら新条永世名人は心の中でそう語る。
(だが、名人、クイーンになるような選手はそんな逆境を跳ね返す。四条光輝、お前はどうだ?)
忘れてる人もいるが、この日がA級デビュー戦の光輝にとって、新条永世名人ほどの人物に名人としての器があるかどうかの視点で見られるのは異例だ。
このようなコンディションの中でも光輝は才能の片鱗を見せていた。




