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俺は無段のかるた選手だったが、何年もクイーン候補の幼なじみとの練習に付き合ってたら、いつの間にか有段者相手に無双するどころか名人級の選手になっていた  作者: かるたー
俺は無段のかるた選手。初出場した高校選手権で無双して、無敵の現役女子高生クイーンにも勝利してしまう
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幼なじみに四条光輝という選手を語る一色千里

 結姫(ゆき)の隣に座ったのは、準決勝で光輝(みつき)と激戦を演じた一色千里だった。


「一色さん……?」


「あれ? あたしのこと知ってます?」


「そ、そりゃー、知ってますよ」


「そういうあなたは、えーっと…………」


「大阪明星会の花山結姫(はなやまゆき)です」


「あー! ということは四条くんとは同会ですね!」


「は、はい。そうですが……」


 これまで、ほとんど接点がなく、話したことがない結姫は千里のつかみどころのないペースに毒気を抜かれる。


「あー、別に敬語いいですよ。花山さんって、あたし達よりも年上でしょ?」


「ま、まぁ、そうね」


「ところで花山さんは四条くんの応援ですか?」


「そ、そうね……」


「すごい! いくら、同会とはいえ、見る目ありますね!」


「え?」


「普通、クイーンを目指す人なら、同会の選手の応援よりもさやかちゃんの取りの研究だと思います!」


 たしかに結姫にとってはそれも目的の一つである。ただ、今は光輝がクイーン相手にどんな取りをするのかどうかの関心があるのも本音である。


「一色さんは、違うの?」


 結姫が確かめるように聞く。


「そうですねー。あたしはさやかちゃんの取りよりも今さっき、あたしに勝った人がどんな取りをするのかに興味がありますね。それって、別におかしいことじゃないですよね?」


「ま、まあ、たしかに」


「それにもともと、あたしはさやかちゃんの取りには興味がないのです」


 結姫をはじめ、他の女流選手やクイーン本人が聞いたら、反応に困るような爆弾発言だ。しかも、これが強がりではなく、素直に言っているのが口調や表情からもわかる。

 実際、耳がいい目黒クイーンは千里の今の言葉の節々が聞こえていたようだ。少し、横目で睨みつけたようだが、千里は意に介さず、目黒クイーンもすぐに関心は失せたようだ。


「さすがね。目黒クイーンに最後に公式大会で土をつけてるだけあるわね」


「へー、さやかちゃん、あれから負けてないんですねー」


 本当に自分の興味ないことに関してはとことん、関心が薄いようだと結姫は察した。


「まあ、あの頃よりは強くなってるかもしれないですけど、根本的な取りは変わってないっぽいですね。クイーン戦や今日の取りを見る限りは」


 千里が口元に人差し指をあてて、ニヤリとする。


「さやかちゃんなんてちっとも怖くないです。ただ、音を正確に聞いて、正確に手を伸ばす……小さくまとまってるだけのつまらないかるたで。あたしから言わせれば、四条くんの方がよっぽどすごいですよ!」


 本人に聞こえるかもしれないほどの声量で堂々と言い放つ千里。光輝のことをこれほど買うような発言をする選手を結姫は自分以外で初めて見た。


「みー……し、四条君のこと、どこがすごいと思ってるの?」


 少なくとも光輝の取りに関しては誰よりも知ってるという自負がある結姫だが、あくまでも身内の視点になりがち。

 他会の人から見れば、また違う視点があるかもしれない。それに千里は独特なキャラクターで感性も普通ではない。そういう人の視点は参考になるだろうと聞いてみた。


「なんか、上手く言えないんですけど……四条くんには天井がないと思います」


 背比べをするように頭の上に手をかざしながら、千里が光輝の凄さを一文で語る。

 天井がない、という一言に結姫は言い得て妙だなという感想を抱いた。実際に光輝が外部の試合を経験してからというもの、日々、成長を続けているのを結姫が一番、実感しているからだ。


「あたし、小学校の頃に対戦したことあるんですけど、その時の衝撃はもう、なんというか、忘れられないですよね! 胸に刻み込まれたっていいますか。四条くんに負けた後、彼の試合、決勝までぜ~んぶ見て思ったんですよね。直感でキュピーンときちゃいました!」


 なにやらエフェクト音でもかかったかのような謎な手の動きをして、興奮した様子で語る千里。続けて、視線を光輝の方へまっすぐに向けて、


「こういう人が名人になるんだろうなって」


 そう口にした千里の表情はさっきまでのつかみどころがなく、少しふざけたノリでもない。光輝をまっすぐに見据えたその眼差しは本気だった。


(彼女、ちょっと変わってるけど、芯がしっかりしてるというか、本能的に何かを感じ取る嗅覚が優れてるのね。目黒さんやみーくんの取りのスタイルもあながち間違いじゃない……)


 少し話しただけだが、結姫は千里の印象がガラリと変わった。

 目黒クイーンの強みはなんといっても正しく音を聞き分け、出札に素早く反応する精密機械のような取り。究極ともいえる理想の取り。

 だが、それだけだ。要はこの機械のような正確無比なリズムを狂わすか、それ以上の精巧な取りをすれば勝ち筋は見える。実に攻略法はシンプル。


(でも、それがいかに難しいか……だけど、彼女はそれを自然とやってのけるスタイルだわ。なるほど、目黒さんのことも怖くないなんて言ってのけるだけはあるわ。この子の直感、バカにできないわね)


 シンプルがゆえに最も難しい。目黒クイーンの圧倒的かつ安定した取りを上回る何かを得るのは容易ではない。

 そういう意味では千里は相手の感じを狂わせる独特な感じやスピードを持つというのは目黒クイーン攻略に向けて大きなアドバンテージといえる。独特な世界観ではあるが、相手の特性を見抜ける感性も持つ。この二つが自然と身についている一色千里という選手は目黒クイーンに対抗できる選手の一人と言ってもいいだろう。


「決勝戦、はじめます! 皆さん、札を並べてください!」


 そんなやり取りをしていたら、決勝戦が始まった。決勝戦なので、あらかじめ50枚組まれた札ではなく、100枚ある札を混ぜる。札を箱からとりだし、互いに自陣の25枚分の札を取って、残りの空札となる50枚を箱にしまう。残った50枚の空札を外箱に入れたのは光輝。

 そして、自陣の25枚を互いに並べ終える。100枚の中からそれぞれ25枚を取り出す。そして、暗記時間が始まった。


(さっき、みーくんは私にクイーンになってほしいって言ってた。だから、私もいつか、ちゃんと言おう。みーくんに名人なってほしいって……)


 もう、どんな結果になってもいい。この試合を見届けて、次につながるように導き、お互いに名人、クイーンを目指そう。結姫はそう強く決心をした。

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