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俺は無段のかるた選手だったが、何年もクイーン候補の幼なじみとの練習に付き合ってたら、いつの間にか有段者相手に無双するどころか名人級の選手になっていた  作者: かるたー
俺は無段のかるた選手。初出場した高校選手権で無双して、無敵の現役女子高生クイーンにも勝利してしまう
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クイーンとの決戦前 激戦の代償

 その瞬間、光輝(みつき)の右腕あたりに電流のようなものが走った。


「つぅっ…………!?」


「みーくん……!?」


 ヒリヒリと痛む右肩辺りを左手でさする光輝の様子を見て、結姫(ゆき)はまた不安げな表情に戻る。


「右手、どうしたの?」


「さっきの試合の最後、敵陣払った時に…………今頃になって、痛んできやがった。慣れないことはするもんじゃねーなっ…………」


 二人の脳裏には最後に右手から倒れこんだ光輝の姿が思い出される。光輝は上手く受け身が取れず、変な角度で右手を強く打ちつけてしまった。その時の衝撃の影響で体が変な動きをしたのか、痙攣のような感覚が生じている。


「だけど…………このぐらいなら、どうにかなる」


 痛みに顔を歪みつつ、光輝が右腕をゆっくり曲げたり、伸ばしたりをしてみる。幸い、骨折や脱臼の類ではなさそうだが、払いや取りには影響が出そうな状態ではありそうだ。ここから、痛みが悪化する可能性もある。


「みーくんがそう言うなら、いいんだけど……」


 結姫は光輝のケガ自体はそこまで心配はしていない。1年間、ほぼ毎日取っていれば、体調が悪かったり、体のどこかに痛みが生じたり、万全じゃないコンディションで取る機会はそれなりにあるからだ。光輝が本当に無理だったら、防衛本能がはたらいて、自分でストップをかけれることを知ってるぐらいには光輝のことを信頼している。ただ、ケガの箇所が問題なのだ。


「でも、利き手をケガした状態で目黒さんを相手にするなんて……」


 ケガをしたのが利き手である右腕。これが競技かるたにおいて、重要なのは言うまでもない。

 畳の上の格闘技と言われるほどの競技かるたは手が交錯してケガをすることはさほど珍しくもない。ただ、光輝はこれまでの競技人生で突き指や脱臼などの手や腕のケガをしたことがない。せいぜい、切り傷程度。

 実際、光輝は以前にかささぎ橋の教え子の小学生が突き指をした時、「どうやったら、かるたで突き指すんの?」って言って、大顰蹙を買ったことがあるぐらいだ。今、光輝は当時のことを直接、謝りたい気分になった。


「そうなんだよなー。こういう痛みの中で試合したことないから、どうなるか俺にもわからないんだよなー」


 そう言いながら、光輝は難しい表情をしながら、右手を曲げたり、肩をゆっくり回して状態の確認を続ける。


「ま、どーにかするさ。どうせ、みんな、俺が勝てるなんて思ってないだろうし、束負けするもんだと思ってる人がほとんどだろ」


 腹を括った光輝は自虐気味に言うが、結姫の心配の種は消えない。


「私も束負けを回避できれば、上出来ぐらいに思ってるよ。どう贔屓目に見てもそう思う。あの機械のような正確無比かつ圧倒的なかるたはみーくんには絶望を与えてしまうかもしれない……」


 これまで戦ってきたA級の選手、いや、それだけでなく、これは舞や結姫も含めたA級選手全体を見渡しても、それほど格が違う相手だ。


「しかも、この右手の状態で、そんな相手と戦って、みーくんがどうなるのかわからない。もしかしたら、絶望的な結果にかるたをまたやめちゃうんじゃないかとか、そんなことばかり考えてしまうの……」


 心配する結姫の頭にポンッと光輝は手を置く。


「なーに言ってんだ。どれだけゆき(ねえ)にコテンパンにやられたと思ってるんだよ。少しぼろ負けしたぐらいでやめるわけねーだろ」


「ちょっと~、なによ、その手は~」


 頭の上に手を置かれて、ムッとする結姫。


「これでも自分のかるたができれば、意外と勝てるイメージがあるんだ。攻略法も考えてある。漠然としたイメージだから、上手くいくかはわからないし、そもそも今の体の状態でどこまでできるかわからないけど……」


「みーくん……」


「大丈夫。ゆき姉が、ゆき姉だけが俺の味方なら、俺は大丈夫だから……」


 結姫は今、光輝が言ったことに懐かしいような、おなじみのような感覚。そして、次に続く言葉もわかってる。


「じゃあ、ゆき姉、行ってくる」


 それはかつて光輝が心配する母親に対して、試合へ向かう時に決まって言う台詞だった。そして、その返事も結姫は知っていた。


「うん! 私はみーくんの味方だからね。不安になったら、私の方を見るんだよー」


 懐かしいやり取りに光輝はどこか穏やかな表情となって、試合会場である浦安の間へと向かう。

 結姫は浦安の間へと向かう光輝の背中を見つめながら、ポーチからある物を取り出した。「幸福守」と書かれたやや煤けている桃色のお守り。10年前に光輝が母親から贈られた青色のお守りとは色違いでおそろいの物である。

 光輝は今も形見として大事に持っているが、結姫にとっても大事な思い出の品の一つでもある。


「こんな時だからこそ、私がみーくんの味方でいないと……どんな結果になってもいいから、無事に試合が終わってくれれば…………」


 お守りを握りつつ、手を組み、結姫は祈るように、すがるようにつぶやいた。気持ちを整理したのち、結姫もギャラリーの一人として浦安の間へと向かった。

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