ついに対決! 光輝VS.千里⑥ 白熱の準決勝が決着!意外な結末に
93枚目「つき」が読まれ、光輝が力強くも光速の払いで出札1枚を払い飛ばす。払った札を取りにいく刹那、光輝は千里が自陣左の「いに」に手を伸ばしている姿を見た。
やはり、「いに」狙いだと光輝は確信した。これで千里1―2光輝ともう出札勝負の様相のようだが……
そして、94枚目「あきの」が読まれ、これで16枚ある「あ」の札は残り1枚。したがって、光輝陣の右側にある「あわじ」のみとなった。光輝としては自陣2枚を右下段に固めて守ってもいい状況だが、光輝は当初と変わらず、敵陣の右下段と自陣の右下段の対角線を意識していた。
おそらく、千里の狙いはここでも「いに」狙いを変えないだろうと読んでいたからだ。光輝は少し体の重心と角度を相手の右下段に伸ばしやすいように変えた。
そして、95枚目の札が読まれる。
「やえむぐら~」
すんなり千里が守っていれば試合終了のはずだった。
実際は「やえ」と音が出るまでの0.1秒もない時間。だが、この間にいろいろな動きが起きた。
千里が読手の音が発せられると同時に快速球のような速さで光輝陣の左下段まで手を伸ばす。光輝はそんな千里の手の動きに若干、手を出すのが遅れる。
しかし、光輝にとってはこれが幸いした。手を伸ばす千里の体に触れぬよう体全体を自分の右側に重心を寄せつつ、右手を少し外回り気味に動かしながら、千里の右下段にあった「やえ」の札を手首のスナップを上手く使って、ぱしっと払い飛ばした。
その反動で右腕から倒れこみつつ、光輝が千里陣にある「やえ」を払った音を間近にいた千里はしっかりと聞いてしまった。
(え? い、いやだ、いやだよ…………)
千里はその一瞬、心の中でそう嘆いた。
何を思ったか、魅入られたように光輝陣の左下段の「いに」に触れてしまったのだ。
そして、大きく目を見開き、何がなんだかわからないといった表情になっていた。
しかし、無情にも体制を立て直した光輝が冷静に先ほど千里が触れた「いに」、右下段にある「あわじ」の2枚の札を送る。まだ、光輝陣の左側に手を伸ばし、大きく目を見開いたままの千里は送られた2枚の札を粛々と受け取る。
これでダブルが成立し、王手をかけられながら一転、光輝が千里を2枚差で下したのであった。
浦安の間はこれから運命戦になるところもある中、この瞬間、静かなどよめきとため息がもれて、ギャラリーは呆気にとられた。ましてや配信で見ている方は何がなんだかわからない状況だ。
(すごい…………! こんなことってあるのね)
百戦錬磨の結姫でさえ、A級のこんな試合でこのような結末はなかなかお目にかかれないものだった。
(みーくんの強さは知ってるつもりだったけど、知らないことも多いのね。間違いなく、この強さを引き出したのは……)
結姫の視線の先にはまだ気持ちの整理もつかないまま札を片付ける作業をする千里の姿だった。取りの相性がいいのだろう。そんなことを漠然と思ったと同時に光輝が自身の手から離れた寂しさも感じ取った。
残った他の級の試合や組は運命戦までもつれたが、最後に読まれたのは「いに」だった。お互い読みや意図は違うが、「あわじ」が最後に出ると踏んでいた光輝はもし、ダブルが成立していなかった場合、「いに」を送る予定だった。もし、運命戦までもつれていれば、千里が今度こそすんなり守って終了だっただろう。
(やれやれ……こんなんじゃ、勝った気がしないな…………)
試合には勝ったものの全体的な試合運びや取り味、戦略的にも完敗だった。光輝は心の中で自嘲しつつ肩をすくめた。
お察しの方もいるかもしれませんが、この試合のモデルは2010年の第56期名人戦の4回戦です。




