幕間 配信画面が切り替わり
配信に遠目で映る息子の試合を眺めていたのは悟。そして、同じく教え子も気になる今原美都子も別の場所で配信を見つめていた。
「おぅ……ようやく、メインに切り替わったか」
試合は進んでいるが、これで配列がよく見えるようになってきた。二人は伊達に元名人、元クイーン。決まり字の変化とどこまで何が読まれたかも頭に入っている。
「68枚目の時点で7枚セームか…………これは最後までもつれそうだな。あいつにしては上出来だがな」
悟がそう言えば、
「千里がこんなに生き生きとした表情で取ってるなんて……!」
画面越しに見る教え子の初めて楽しそうに取っている姿。相変わらず捉えどころのない自分の教え子に自虐も込めた笑いを漏らす美都子。
「そもそも、千里が相手に関心を持つようなことなんてあったかしら? 私はおろか、目黒さやかにだって、関心持ってないのに……! 一体、なにが……?」
そして、教え子の相手に目をやる。
「さすがは四条くんの息子ね。細かいスタイルは違うけど、リーチを生かしつつも基本に忠実で丁寧な取り、それに加えて力強さも兼ねたかるたはあの頃の四条くんにそっくり……」
ぶっきらぼうに取りつつも随所に見せる正確無比な取りの鋭さ……今の光輝の取ってる姿に若かりし頃の父親の面影を見たのだった。
「そうか。千里の調子がいいのは、あの子のかるたに…………」
千里は気分屋だ。これまで千里が本気で取り組む時はあったが、それがコロコロと変わるため、スイッチがわからなかった。
しかし、今やってる試合を見て、美都子はそのスイッチを見つけた。
「すごいな、あの子……でも、そんなあの子に勝てれば、千里もきっと……」
古くからの競技仲間の息子、それが与える教え子の可能性に底知れぬものを見たのだった。
***
他方、大阪某所。翔国高校の光輝の同級生である田中と清水もまたかるたの配信を見ていた。彼らはかるたそのものには興味はないが、不思議ちゃんキャラと人形みたいなルックスの目黒クイーンはオタクたちに大人気だからだ。
「いやー、さやか様は今日もお強いですな!」
「同じ高校生じゃ、勝負になりませんね」
「おっ? 別のA級の勝負に切り替わるようですぞ」
お調子者の田中がそう言うと、先に映ったのは半そでの黒のポロシャツに紺色っぽいジャージを履き、赤茶色の肩まであるセミロングが麗しい女子高生の一色千里。ちなみに界隈では目黒クイーンはさやか様という愛称が定着しているようだ。
「おー、この人もなかなか可愛らしい見た目をしてるな!」
「ぜひ、さやか様と対決してほしいところです」
そして、相手の男子高校生が映される。そこには座布団のうえに座り、黒のスラックスに、白いカッターシャツを羽織ったその男は二人もよく知る顔だった。
「お、おい…………こいつ、光輝じゃねーのか?」
「ま、まさか……他人の空似ですよ。あんなボケーっと適当な顔してる人がこんな目つきしてるわけが……」
『さて、もう一つのA級準決勝の対決は左側が山口の桜光女学園・一色千里選手、右側が大阪の翔国高校・四条光輝選手となっています。』
配信の司会のアナウンサーらしき人が選手紹介をしたことで他人の空似でないことが発覚した。
「あ、あいつ、なにやってんだよ!」
「そもそも、かるたなんてやってたとか知らなかったでござるよ!」
清水は思わず、語尾が変になった。
その時、光輝が「せ」をきっちりと1字で払い飛ばした。無駄な動きなく、目にもとまらぬ速さで札を払い飛ばした光輝の表情は二人の知っているものではなかった。鋭い目つき、機敏な動きで札を払うクールでスマートな姿は普段のボケっとした姿とは似ても似つかない。
「…………」
二人はそんな光輝の姿に背筋を凍らせるだけだった。
目黒クイーンにしか興味がなかった二人はさらに目が離せなくなった。




