幕間 父親と旧友のやり取り
準決勝の試合が始まる前の時間。場所は変わって埼玉で単身赴任中の四条悟宅。休日に一人でテレビを見つつ、SNSで今日の高校選手権のエゴサをしていた。なんだかんだで息子の結果は気になるようだ。そんな矢先に悟のスマホに電話が鳴った。
「ん?」
ディスプレイに映った電話主の文字を見て、珍しい人物から電話がかかってきたと悟は思った。電話に出る。
「はい、もしもし。」
「はいはーい、ごきげんよう、四条くん! 今原美都子よ」
「おー、みっちゃん。久しぶりだなー」
「ふふふ、あなたにその名前で呼ばれるのも懐かしいわねー」
なにやら、過去に因縁がありそうな二人だが、なんてことはない。学生時代から単なる同世代、同時期にかるたをやっていた間柄というだけだ。元名人、元クイーンという共通点もあるが、それ以上の関係はない。
「いきなり、電話かけてきて、何の用だ?」
「今ね、高校選手権の準決勝であなたの息子とわたしの教え子が試合してるわ」
その言葉を聞いて、悟がぴくっと反応する。
「あんたの教え子ってたしか……」
「そう、千里。一色千里よ」
「あの子か……光輝も厄介な相手に当たったなぁ」
「そうね。目黒さやかですら、苦労する感じだからね。感じがいいほど、リズムを狂わせられるって、みんな言うわね」
「なるほどな。今の若い奴は闇雲に手を出したがるからなー。そのくせ、構えるのが遅い。ちゃんと音を聞く準備をして、手を出してんのか? って思うよ」
「今どきの若いもんはっていう年になったのね、わたしたちも。まあ、その点には同感ね」
互いに今の現役のかるた選手への苦言を呈する。
「しかし、わざわざ、今、俺に電話かけてきてまで言うことでもないだろ?」
「そうなんだけど、あの子、珍しくわたしに『試合見ててください』ってRIMEでメッセージ送ってきたのよ。普段はやる気のスイッチがどこかわからないのに、この1か月はすごい練習にも身が入っててね。きっかけはなんだろうと思ってたら、あなたのところの光輝くん? 彼がA級に上がってからじゃないかなって思ってて」
「おいおい、それはないだろ。あいつ、今日がA級デビュー戦だぜ?」
「そうなんだけど、あの子は確信持ってるみたい。あの人は絶対に強くなってるはずだって。実際、四条くんも仕込んでたんでしょ?」
「まぁ、俺が直接、手を入れたわけじゃないがな。ずっと、相手をしてたのは結姫ちゃんだ」
「なるほど、花山さんかー。ところでさー、今、配信見てるんだけど、あんなに生き生きしてるあの子を見たのはわたしも初めて!」
「ん? ちょっと、興奮してるところ悪いが配信ってなんだ?」
通常、高校選手権は団体戦しか配信を行わない。それに疑問を感じた悟が尋ねる。
「あー、目黒さやかが勝ち残ってるから、準決勝から緊急配信してるわよ」
「おっ、そうなのか」
悟がそれを聞いて、パソコンのマイチューブへと急いでつなげ、全日本かるた協会のチャンネルに飛ぶ。そして、「おっ、やってる、やってる」とつぶやく。
「メインは目黒さやかなんだろうけど、田中さんじゃ、すぐに終わるだろうから、その後、映してくれるといいんだけどね」
「俺も目黒さやかの取りには興味はない。あれは文字通り機械みたいな取りだからなー。見てて味気ないんだよなー」
「でも、取ってて一番、怖い相手だわ」
彼女の言葉の後に重い沈黙が流れる。
「ま、あんたは今もクイーン目指してるもんな。そりゃ厳しい相手だな」
「ふっ、まあね。でも、あの子、千里ならあの機械的な取りを崩せる。だから、本気でクイーン目指してくれるとわたしもうれしいんだけどね……」
「フッ、そのセリフは俺の愚息をまずは倒してからだな」
「さっきはA級デビュー戦だぞって侮ってたくせに」
「実は俺もあいつの取りを見るのは久しぶりなんだよ。ただ、俺の予想通りなら、あいつの取りは全盛期の俺か、理想にしてた俺に近い存在になってるはずだ。そう簡単にゃ負けねーよ。お互いにお手並み拝見といこうじゃないか」
「そうね。あなたもシニア大会のG級の初出場初優勝、狙ってるんでしょ? 息子が強ければ、張り合い出ていいわね」
「ふっ、どうだかな」
互いの青春時代を切磋琢磨をしあった仲だけに、競技の話のことになると、話が弾んだ。代理戦争というべき対戦。果たして、結果はどうなるのだろうか。




