白熱の準々決勝の試合後③ 一色千里のクイーン位西日本予選への宣戦布告?
「あらためて、山上さんや四条くんのお父様、ずっと練習に付き合ってくれた花山さんに感謝です~。あたし、四条くんが復帰してからというもの、かるたが楽しくてしょうがなくて、しょうがなくて……」
千里は神様を崇めるかのように胸の前で両手を組んで感無量の様子だ。
「一色さん、今原さんは元気にしてるの?」
「みっちゃんですか? めちゃくちゃ元気ですよ~! 今年で50になるとは思えないぐらい、キレよくなってますから。きっと、あたしから若さ吸い取ってますね、あれは」
千代が千里に尋ねると、彼女が得意げに答えた。
「これからはあたしも四条くんや花山さんを見習って、できる限り、みっちゃんやことおい会の人たちと毎日、かるた取るんです! 今年の西日本予選、みっちゃん、かなり仕上がってると思うんで、そちらの桑野さんや花山さんにも負けませんよ!」
得意げに語った後、不敵な笑みを浮かべながら語る千里の表情は自信に溢れている。師で練習相手でもある今原美都子だけではなく、本人も自信満々といった顔をしている。
山上会長と千代は舞や結姫がクイーンをめざすうえで厄介な相手が現れたと感じた。これまで千里は実力や実績はあったが、モチベーションが最大の課題で何をめざしてやっていたのかわからなかった。
ところが今の千里は明らかにクイーンを本気で狙いに来て、この時点で最大の課題を克服している。10月下旬のクイーン位挑戦者決定戦の西日本予選までの2か月強でどこまで仕上げてくるのか。どれほどの強さを身に着けるのか。
特に選手として対決する可能性のある結姫は固唾を飲むが、山上会長夫妻はそれと同時に興味が尽きないといった感じだ。
「あなたのような若い子の成長も楽しみだけど、今原さんのようなベテラン選手が再び輝くのも楽しみね。私も今原さんも若い頃にクイーンの座を争いましたから」
千代が感慨深げに語った。
実は千代も元クイーンである。美都子よりも一回り上の千代にとって、彼女はもう一度、クイーンをめざすうえで彗星のように現れた新進気鋭の若手として立ちふさがった存在。逆に美都子にとっては千代は立ちふさがるベテランの壁といった存在だった。今では美都子が当時の千代のような立場になった。
「大阪代表のみなさーん、ミーティングしますんで、一旦、コンコースに出てくださ~い!」
引率の後藤先生から声がかかり、ぞろぞろとコンコースへと集まる。
光輝や結姫が会長夫妻に軽く会釈をして、みんなが集まるコンコースへと向かった。
「最後の挨拶か何かかな? あたしも行こう~っと」
千里がそう言って、向かおうとした時だった。
「千里様! もうすぐ、バスの発車時間です!」
と、山口代表のメンバーに呼び止められる。前日に予選敗退したところは昼で帰路につくスケジュールとなっている。
「え~~! あたし、まだ帰らないよ~~! 帰りぐらい自腹で帰るから~~」
と、駄々をこねる千里だが……
「ダメですよ、一色さん。あなた一人の勝手な行動で桜光女学園全体に迷惑がかかるかもしれません。ちゃんと、山口に帰るまでは私たちについてきてもらいます!」
「え~! やだ~! あたしも四条くんと帰る~~~!」
そう喚くも山口県の引率の先生は千里を引きずりながら、会場をあとにする。
「四条くん、またね~~~! また、会おうね~~~! また、かるた、取ろうね~~~!」
引きずられつつ、泣きながら別れの挨拶を叫ぶ千里を光輝は引きつった笑顔を浮かべながら見送った。まだ、千里の断末魔のような声が聞こえてくるが、光輝は振り返ることなく、大阪代表が集まる輪に入った。このチーム、最後のミーティングを行うために。




