白熱の準々決勝の試合後② 光輝を労う山上会長夫妻
大阪代表のメンバーが集まる場へと戻す。まだ、感極まって青春を語らう光景が繰り広げられているが、少しずつ落ち着いてきた模様。それを俯瞰して、光輝が眺めている。
「みーくんはなんか、すっきりしてるね」
結姫が光輝に尋ねる。
「うーん、俺はたぶん、こいつらほど部活に打ち込んだわけじゃないし、もともと、こういう場に呼ばれるだけで光栄だと思ってたからな~」
「本当に謙虚だね~、四条くんは」
「お前、自然といるよな」
結姫に返した言葉に対して、千里が反応したのを光輝が怪訝そうに言う。
「やぁ、邪魔するで~」
そんなやり取りをしているところにしわがれつつも威厳のある声を発してやってきたのが大阪明星会の山上会長とその妻・千代。結姫と光輝はもちろん、かるた界のドンともいえる存在の山上会長に千里もさすがに背筋をピンと伸ばして礼をする。
「お越しになられてたんですね」
「あぁ、ついさっき、2試合目の途中でなぁ。それにしても、四条君はさっきの試合は惜しかったな~」
「すいません。勝てませんでした」
山上会長の労いの言葉に光輝がしおらしく言いつつも口調は少し残念そうだ。
「でも、今年はここまで来れただけでも上出来や。四条君のおかげやで」
「そうよ、あなた、本当にラッキーボーイよ」
山上夫妻にそのように言われ、照れくさそうに頭を掻く光輝。それを微笑ましく見つめる結姫と千里の女二人。
「四条君は大学でもかるた続けるつもりなの? 進学希望だったわよね?」
「一応、今は続ける予定でいます。ただ、まず、大学に行けるかどうかってところからなんですが……」
千代の問いに答える光輝だが、競技と違い、進路に関してはいつも通り自信なさげにバツの悪そうな顔をして答える。
「推薦の話、来てるんじゃないの?」
実を言うと、光輝には未だに立修館大や同仁社大などかるた部の強豪私大などから誘いがある。ただ、あまりにも急な勧誘になったため、心の準備ができないまま、返事を保留している状況である。山上会長や妻・千代もその話は耳にしている。
「はい。ただ、大阪に帰ったら、推薦の話はお断りしようと思っています。絶対にいい話でもったいないとは思うんですけど、なんていうか、僕の主義じゃないっていうか…………かるたを続けるにしても今のペースを崩さないまま、そことは別の場所でがんばりたいというか……」
光輝は不意に結姫の方を見る。
「そういう頑固で義理堅いところとか、強いこだわり持ってるところはあなたのお父さんにそっくりね」
「え、そうですかね?」
「そしたら、受験勉強、がんばりなさいな」
「はい、ありがとうございます。来年の春にいい報告ができるようにしたいです」
光輝の答えを聞けて、満足げに微笑を浮かべて、千代は話を切り上げた。そして、光輝は結姫や千里と話し込んでいる山上会長のもとへ向かう。
「会長」
山上会長と結姫の話に割り込んで、会長を呼び止め、みんなが光輝の方を振り向く。
「あの…………下山さんもそうですが、今年の春、こんな、なんの実績もなかった僕に声をかけていただき、ありがとうございました。また、あの時、一旦は断ってしまったこと、本当に申し訳ございませんでした」
そう言って、光輝は一、二度、深々と頭を下げる。
「いやー、かまへんよ。こうして、ちゃんと受けてくれたし、大阪の代表として、ええ結果も残してくれたしな」
「それでも、あの時、断っていたら……そもそも、この話がなかったら、僕の高校生活で今回みたいな経験はできませんでした。改めて、ありがとうございました」
「それは、ワシよりもお父さんに言いや。あいつの鶴の一声が君の背中、押したんやから」
「はは…………癪だけど、そうですね」
乾いた笑いを漏らしながら、光輝が言う。




