白熱の準々決勝の試合後① 目黒さやかは一足先に帰る
試合を終えて、観客席へと引き上げてきた大阪代表の面々。控えのメンバーや読手コンクールに出場した殿山も出迎え、先ほどの試合に出ていたメンバーと涙ながらに抱擁を交わしたり、まだ泣き崩れる仙崎が椅子に腰を落とすと、春日山の後輩の荻野が労うなどの光景が繰り広げられた。
そんな青春の一コマの様子を光輝は一歩引いたところから見ていた。3年生はほとんどが涙を流す中で光輝はすっきりとやりきったような表情をしていた。
さらにその光輝の姿を新条とさやかが少し離れた場所から眺めていた。
「やっぱり感じましたの。あの人はわたしに足りないものを持ってるって…………」
さやかがこのような言葉を漏らしてる間に光輝にも労いの言葉をかけてくる人が現れ、自然と輪ができている。その光景を見たさやかは沈んだ表情を浮かべる。
「でも、今のわたしにはその足りないものが、わからない…………わたしにそれがわかる時は来るんですの…………?」
影を落とした表情のまま沈んだ声で言うさやかに新条が目線を向け、口を開く。
「お前はまだ若い。今すぐにわからなくてもいい。いずれ、わかる時がくるだろうさ」
「あなたには、わかっていますのね。わたしに足りないものが…………」
「あぁ。ただ、感じや技術、戦術とかの話ではない。もっと、抽象的なものだから、俺が教えたところで身につくものではないよ」
新条からかけられた言葉は期待通りのものではなく、さやかは憮然と立ち尽くした。
「さやかさん、チームは苦戦しましたが、なんとか勝てました。さやかさんが応援してくれたおかげです!」
そこへ試合を終えた石崎が駆け寄ってくる。
「石崎、あの人の相手をして、どう思いましたの?」
その声に振り向いたさやかが石崎に単刀直入に聞いた。
「え、どうって……? ご覧の通りです。俺ではあの人、四条の相手にはならないぐらいの強さでした」
「ですから、その強さがどうだったのかと聞いてますの」
「ど、どうだったと聞かれましても……」
いまいち、さやかの言っていることの要領を得ず、石崎は返答に詰まった。その石崎の反応にさやかは呆れなのか、あきらめなのか、表情を変えないままため息をついて、踵を返した。
「石崎、わたしは帰りますの。あとの2試合、せいぜい、がんばってくださいな」
「えっ? 準決勝と決勝も見ていかないのですか? 応援に来られたのでは?」
「わたしはあの人のかるたが気になっただけですの。だから、もう、ここに用はありませんの。あしからず……」
「そ、そんな……! でも、さやかさん、一人では……」
「帰りのことならご心配なく。新条さんに送っていただきますので」
「俺はお前の保護者ではないんだがな。ただ、お父さんからも今日の送迎を任されているし、彼女を一人にするわけにもいくまい。石崎、心配なのはわかるが、ここは俺に任せてもらえないか」
「い、いえ、新条さんがいてくれるなら、いざというとき、安心ですので……」
「そうか。とにかく、切り替えて次の試合に臨んでほしい。あと、田尻にもよろしく言っておいてくれ」
「は、はい! それでは新条さん、さやかさんをよろしくお願いいたします」
石崎がハキハキとした口調で言いながら、新条に頭を下げて、二人を見送る。なんの未練もなさそうに会場をあとにするさやかの後姿を眺める石崎の背中と顔は寂しげかつ複雑な胸中だった。
(四条にあって、目黒に足りないもの…………それは、意外とすぐ近くにあるものだ。クイーンである間にその答えにたどり着くことができれば、もう一段階、上の境地へといけるはずだ。それには石崎、お前という存在が必要なんだ)
さやかが真のクイーンになるのに足りないもの、光輝と結姫の関係を引き合いにもう一つ、階段を上がる鍵が石崎の存在だと新条の勘が告げる。しかし、それを当人たちが気づく日は来るのだろうか。




