決勝トーナメント準々決勝 VS.東京代表⑪ 薄氷の勝利の前回王者、崩れ落ちた仙崎
運命戦の末に敗れた大阪代表の仙崎は頭を下げる礼まではなんとかしたが、礼をして頭を下げたまま、崩れ落ちていた。
「うぅっ……! うあああああああっ!!」
畳の上で突っ伏したまま仙崎から慟哭のような泣き声が漏れる。
その仙崎を悲痛な面持ちで見る山本と高山、そして森田の3人。光輝が仙崎に近づき、肩をポンポンと叩く。
「ありがとうな、仙崎」
光輝は仙崎にただ、一言、感謝の言葉だけをかけた。石崎を大差で下したこと、試合を終えて、敗退した結果を受け入れて、何か満たされていたのか、どこかスッキリとした表情をしていた。
「うぅ……ご、ごめんなぁ! 俺もお前みたいに…………もっと、練習しとけばぁっ!!」
「お前の方がよっぽど、大阪背負ってきたんだろ? お前がいなきゃ、ここまで来れなかったって。俺の方こそ、ごめんな。今までいなくて」
光輝が出てくるまでは仙崎は今年の春日山、大阪の高校生選手として引っ張らなければならない存在として、この1年、彼なりに重圧を背負いながらの活動だった。
光輝はそれまでかるたの表舞台から遠ざかり、不作といわれた今年の高校生世代を引き上げ、引っ張る立場として十分な貢献ができていなかったことを悔いた。自然と仙崎に感謝だけじゃなく、謝罪の言葉も出てきた。
もしかしたら、自分が結姫のように実力的にも精神的にも引っ張れる存在だったら…………
そう思うと、後悔してしまうが、逆にあの日々があったからこそ、今の自分があるとも思っているため、すっきりしたような顔を浮かべつつも何とも言えない複雑な感情も渦巻いている。
光輝は項垂れるまま起き上がれない仙崎を宥めつつ、「あ、俺やりますから」と札の片づけを手伝う。そして、体育館スペースから観客席へ引き上げようとするが、未だに仙崎は嗚咽を漏らし、泣き崩れたまま起き上がれない。非力な光輝一人ではそんな仙崎を担ぐことができない。
「後藤先生、呼んでー!」
自身もタオルで目元を抑えつつも、それを見かねた山本が観客席にいる控えメンバーたちに向かって大きな声で伝える。
しばらくして、後藤先生が下りてきて、光輝とともに肩を貸りて、ようやく仙崎が立ち上がり、観客席のもとへと引き上げていく。
「すいません…………せんせ、い…………」
手で顔を覆い、仙崎が涙で声を詰まらせながら、後藤先生に謝罪の言葉を漏らす。
「何言ってるんだ、仙崎。お前、よくやったよ。うれしいよ…………!」
高校で教師としても顧問としても仙崎を普段から見ていた後藤先生も日々の取り組みや苦労を思い返していたのだろう。彼も仙崎の涙につられて、声をつまらせている。
「胸張って、みんなのところへ戻ろうぜ」
光輝がそう言うと、後藤先生と三人四脚の要領で仙崎を抱えながらゆっくりと引き上げていく。未だに俯きながら、顔を手で覆う仙崎の姿を見て、森田も目頭を熱くさせる。
「森田さん」
「は、はい!」
それを見た光輝が森田に声をかけると、森田がハキハキとした返事をし、
「お前は泣くな。来年、勝って泣くんだよ」
まだ来年がある2年生の森田にそう告げた。光輝は涙一つ見せていないが、仙崎はじめ山本と高山、観客席にいる渡辺も涙を浮かべている。森田もそれを見て、涙が決壊する寸前だった。
「…………ハイッ!」
目と顔を赤くしながらも、口を一文字に結んで必死に涙をこらえて前を向いた。
8強入りしながら、惜しくも準決勝進出を逃した大阪代表だが、前年優勝の東京代表を土俵際まで追い詰める健闘ぶり、敗退してもなお堂々と引き上げてくる様子を見たギャラリーが大阪代表に再び割れんばかりの盛大な拍手で出迎えてくれたのだった。




