決勝トーナメント準々決勝 VS.東京代表⑧ 光輝、怒りの高速渡り手炸裂!
そこで光輝が当初の狙い通り、チームの主将である石崎をこのまま大差で下して、他の選手に重圧を与えて、慌てさせたいところ。本人としてはそのミッションは十分にこなせている展開だが、それ以上に1番と2番席の高田と草野のペースが早い。
(高山さんと山本さんのところはあと数枚ってところか。さすがにA級相手では厳しそうだな。こっちもハイペースで札を減らせてはいるが、一抜けするには少し無理にいかなきゃならないか…………)
また、石崎もビハインドが10枚近く開いたこともあり、自陣に意識を置き、守りで枚数差を縮める方向にしたようだ。
(基本、攻めがるたっぽいが、守りにシフトし始めたか。こうなると、簡単にはいかないな。それなら、無理せず確実に勝ちを拾いにいったほうがいいか…………)
光輝も勝ち筋は見えているところまでは来ているものの、1番と2番席のペースを抜くには相当なランニングコストが必要な取りをしないと間に合いそうにない。それよりかは健闘している4番、5番席の二人に合わせるような形が得策だと判断して、方針転換。
(それでも、10枚差以上は絶対に付けて勝つ!)
光輝がそのように意気込むと、観客席の方にはお花を摘みに行っていたさやかが戻っていた。
(あぁ、さやかさん。戻ってきてくれましたか……!)
そして、それを見た石崎の目に光が宿った。
(かなり差はついたが、さやかさんの前で無様な試合は見せられない……! 負けるにしても東京に3勝目が記録されるまでは持たせて見せる!)
石崎としては負けるにしても東京の勝利が決まるまで、そして、前年優勝の東京代表、名門・成光の主将としての意地とプライドにかけて束負けは阻止。それぞれの思惑が交錯する中、どちらが狙いどおりに事を運べるか。
ところが62枚目の「あさぼらけあ」で新堂がお手つきをしたところで東京代表の歯車が少し狂い始め、試合がまた大きく動き出す。
「もったいないね」
石崎が隣の新堂に聞かせるように独り言をつぶやく。それに対し、新堂もアイコンタクトに加えて、笑顔を浮かべて無言で答える。この辺りは団体戦に慣れている面が窺える。
(見ていてください、さやかさん……!)
観客席に座って戦況を見つめるさやかを視界の片隅に置いてから、試合に入る石崎。当然、目の前に座る光輝にはその様子がありありと見える。
そして、64枚目「はなの」は石崎の陣に「はなさ」もあり、友札が揃ってる状況。右と左にそれぞれ分けて置かれており、石崎はまずは右の陣の札を囲ってから渡り手で取りに行こうと試みる。
(よそ見してんじゃ…………)
読手が「は……」と詠んだところで、
「ねぇぇぇぇぇぇっ!!」
光輝が怒りの声を上げて、石崎陣の1字で取れるようになった「はなの」と「はなさ」をパチン、パチン! と石崎の反応を凌ぐ高速の渡り手で攻め取る。その精度たるや、拳銃の早撃ちで複数の的を当てるかのように左右に分かれた札を弾き飛ばした。
光輝の反応と声を上げたタイミングが早すぎたため、他の席では決まり字まで聞き取れないところもあったようだ。そのためか、運営の審判委員長から少し注意が入った。それに光輝は軽く頭を下げていた。
(なんだとぉ…………!?)
怒気をはらんだ声とは裏腹にその払いの切れ味は鮮やかで、石崎の守りに入った手を掻い潜りながら、渡り手を成功させた。その攻めを食らった石崎は面食らうしかなかった。
(ありえない……! あいつ、俺の囲い気味の手に躊躇することなく、その隙間を掻い潜ってきやがった。そのうえ、渡り手で決めるなんて…………どういう神経してるんだ、こいつは!? さやかさんでもこれほどの精度の高さは…………)
(ゆき姉と取ってたら、これぐらいできなきゃ勝負にならねーんだよ!)
飛ばした札を取りに行く光輝がそう思って、観客席のいる結姫の方を振り向く。ただ、今の怒気をはらんだ声が響いた影響か結姫は心配してそうな、怒ってそうな微妙な表情を浮かべていた。
その結姫の表情を見た光輝は「いっけね」と少しだが、平静を取り戻した。
「お待ちください」
自分の席に戻ると、読手に待ての合図を送るための挙手をして、自陣から相手陣に送る札を考える。大方、送る札は決めているのだが、昂った感情をクールダウンさせるためにあえて時間をつくった。




