決勝トーナメント準々決勝 VS.東京代表⑤ 光輝のこの一戦への思いを知った結姫は……
「でも、石崎君は目黒さんと団体戦したかっただろうな」
そんな中で結姫がぽつっと口を開く。
「……なぜ、そんなことがわかりますの?」
結姫の一言に疑問を抱いたさやかが尋ねる。
「それは、私がそうだったから」
「あなたと石崎が、同じ……?」
「うーん、あくまでも私の想像だから、本人がどう思ってるかはわからないけど…………私も高校最後の総文祭が終わった時、みーくんがいればなって思ったの。私とみーくん、2歳違いだから、一緒に高校の大会に出れるのって一度しかなかったしね」
「一度しか、ない…………」
結姫が言ったことを反芻するようにさやかが漏らす。
「そうですよねー。あたしも高校選手権とこの大会出ようと思ったのも四条くんと取れるかもって思ったからですし」
「そういえば、石崎もそんなこと言って、高校選手権の出場を説得しにきましたの」
「でしょ? だから、石崎君もそうじゃないかなって思って」
「そういうものなのですの?」
「そういうものよ」
釈然としない様子のさやかだったが、結姫はさやかが自分の話に少し興味を持って聞いていたのを見て、根は悪くない印象を持ったようだ。
おそらく、さやかは無関心、無表情なのではなく、感情の伝え方がわからないか、不器用なだけではないか、と結姫は感じたようである。そう思うと、さやかのことを微笑ましく見れるようになった。
「ところで花山さん。さっき、四条くんの様子、なんか、おかしくなかったですか?」
千里が急に話を変えて結姫に尋ねた。
「そうなの。あんなに気負ったように勝ち負けにこだわる様子が珍しくて…………」
「あたし、昨日、見たんですよ」
「一色さん、昨日、何かあったか知ってるの?」
「昨夜、ホテルのロビーであの東京の主将とケンカというか、言い合いになっていたというか……話の流れ的に花山さんをバカにされたのを怒ってる感じでした」
「え……」
しかし、この期に及んでも千里は石崎の名前が出てこないようである。
「花山さんが四条くんのかるたをずっと見てきて、強さをわかってるように、四条くんも花山さんをずっと見てきたんです。そんな花山さんをバカにされたのが悔しくて、怒ったんだと思います。だから、花山さんのために意地でも負けたくないんですよ」
「みーくん…………」
千里から光輝がこの一戦にかける思いの裏にあるであろう昨夜のやり取りを聞かされた結姫が畳に座って、暗記時間に勤しむ光輝を眺める。
「それは無礼ですの。石崎には後でわたしから言っておきますの」
「石崎のヤツめ、目黒と比較されていろいろ言われてるのを気に食わないのだろうが、同じことをしていることに気が付いていないのか。俺からもあいつには田尻を通して言っておこう」
今、新条から名前のあがった田尻というのは今年の東京代表の監督で成光高校のかるた部の顧問をする教師である。自身もA級の上位選手である。
「あいつは俺とは同世代だから、気心の知れた仲だ。教育がなっていないな、と皮肉の一つぐらい聞かせれば、俺の言いたいこともわかってくれるだろう」
新条が微笑を浮かべながら、すでに3人に皮肉を聞かせた。
「いいですよ。私、気にしてませんから」
結姫は石崎にいろいろ言われていたことに関しては本当にあまり気にしていない様子だ。そこは表情もすっきりしている。
「バカね。そんなこと、気にしなくていいのに…………私、そんなこと、望んでないよ」
そう言って、光輝を見つめる眼差しや表情はどこか悲し気だった。
「私のために取ってくれるのもうれしいけど…………それよりもみーくんには自分のためにかるたを取ってほしいよ…………」
結姫は胸を締め付けられたような口調と顔をして言った。
「だって、私、こんな舞台で、かるたで躍動してるみーくんを見れるだけで幸せなんだから! もう、涙出そうになるぐらい、うれしいもの……!」
少し目を赤くしながら言う結姫に千里はジーンとし、さやかは表情を崩さずに結姫の方を流し目で見ていたが、その瞳は物憂げな感情を語っていた。
「四条はそんな思いに囚われて、自分を見失うようなタイプではないだろう。それは花山さん、君が一番、よくわかってるんじゃないのか?」
新条にそう言われると、さっき、見送る時には硬い表情ながらもいつもの穏やかさが戻っていたことを思い出す。
きっと、もう、光輝は心には熱いものがあっても、頭は冷静になってる。そう信じられた。
「…………そうですね」
満足げな表情で光輝の試合を眺める結姫の姿もいつも通りのものだった。




