決勝トーナメント準々決勝 VS.東京代表② 試合前ミーティング、永世名人からの助言
「新条さん?」
結姫をはじめ、大阪のメンバーが振り返ると、その声の主、新条愁永世名人がそこにいた。
「本来なら東京の人間である俺が東京代表の相手となる陣営に助言をするのはレギュレーション違反かもしれないが、さっきの試合でいいものを見せてくれた礼だ」
「いいもの?」
光輝がきょとんとした顔をして言った。
「こっちの話だ。疑わしければ、ただの通りすがりの独り言だと思って受け流してくれればいい」
新条は光輝の疑問を軽く受け流して、話を進めていく。
「段位や選手層では劣っているが、やりようがないわけではない。この大会でやってきたことを出せばいいだけだ」
「新条さん、そんな精神論では…………」
「もちろん、精神論だけじゃないさ。今年の東京は副将の安田、1年生ながら三将の千代田の実力が目立つが、石崎を中心としたチームだ。彼が主将として全体を見て、他の選手が取りやすいようにチームをまとめている。よって、石崎を崩せば全体が崩れる可能性はある」
「そうか。光輝が石崎を大差で下せば、チームの士気っていうか、チームのバランスが崩れるってわけか。たしかに予選やさっきの青森との試合でもやってきたことやな」
仙崎が今の新条の話を聞いて、その狙いを察した。他のメンバーも理解できたのだが、光輝だけ自覚がない様子で少しきょとんとしている。
「そうだ。そして、石崎はこの大会や高校選手権でもほぼ真ん中に座っている。彼だけをターゲットにするなら、当てるのは容易だ。それに相手は四条は端の方に来ると思っていることだろう。誰が来るかはわからないが、3番以外の端側に序列の低い選手を当てようとしてくるはずだ。それに…………」
新条がそう言って、東京代表の控えスペースの方に視線を移す。リラックスムードで座席でくつろいでいる1年生の千代田の姿があった。
「今日は昨日と違って決勝まで4連戦だ。あの千代田の様子を見る限り、次の準々決勝はこの後の準決勝と決勝に向けて主力の一部を温存する気なのだろう。それでも戦力的に不利なのは否めないが、今大会はあまり出ておらず、中には今日が初戦という選手も出てくるかもしれない。そういう選手は多少の硬さを持っている可能性がある。そこを突いて、順当なら勝てると思ってる相手を慌てさせろ。そして、それをするには四条、お前が石崎を大差で下すんだ」
「は、はいっ……!」
「だが、石崎は周囲に目を配り、適度に集中を分散させた方が力を発揮する団体戦向きの選手だ。容易なミッションではないぞ。そして、あくまでも四条が圧勝するのは補助的なものだ。当然ながら、四条含めて君たちで3勝しなければ意味はない。ただ、そのぐらいの心意気で臨めば、わずかながら勝機も見えてくるだろう。俺からできる助言はここまでだ。君たちの健闘を祈るよ」
そう言って、新条はここに長居してはまずいといった感じで大阪代表の集まりから足早に去っていった。大阪代表の面々は去る新条に「ありがとうございました」と礼を言った。




