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決勝トーナメント1回戦 vs.青森代表④~試合中、観客席にて~

「ほう、驚いたな。リーチや速さを生かした取りだけでなく、手首や指先、ヒジ、肩と右腕全体を上手く扱えている。高校選手権の決勝ではケガの影響で直線的で強引な取りの印象だったが、これが四条本来の取りの技術か…………これほど、理想的な払いや感じはなかなかお目にかかれないな」


 新条がここまでの光輝(みつき)の取りを見て、感心したように印象を語る。


「いつもは朝一の試合には弱くて、出だし悪いんですけど、今日はまずまずですね。無理なく取ってるって感じです」


「なるほどな。たしかに抜群に早いわけではないが、音を聞き分ける位置の使い分けが上手いのだろう。同じ2字札でも1字のような反応で取ってる時もあれば、しっかり2字で反応して取っている札もある。これほど安定した取りが高校生の世代でできるとはな。あんな取られ方をした相手はさぞかし、早く手を出したくなることだろう。それが自滅を誘って、この大差につながっている」


 結姫(ゆき)の補足を聞いて、新条がさらに光輝の取りの解析を行った。


「でも、この前のような圧は感じられませんの」


 同じく光輝の試合を見物するさやかが述べた。高校選手権の決勝戦で光輝と対峙した時に感じたプレッシャーを思い出す。


「たしかに言われてみれば、目黒の精密さや緻密さを崩すほどの凄みを感じる取り方ではないかもしれない。良くも悪くもバランスがいい、上品なかるただ。そこは花山さんの影響を受けているのかもしれないな」


 新条が横目で結姫を見ながら言うと、彼女は苦笑いを浮かべて応えた。


「でも、四条くんって、いろいろな所作が美しいんですよ。小学生の頃から、その辺も華麗だったな~。ほら、あの札を愛でるように直す仕草とか変わってない。畳も必要以上に叩かないし、そういうところ、本当に真似したなー」


 千里が見つめる先では光輝が目を細めながら、自陣の列や向きが少し歪んだ札を丁寧に整えるように触れていた。


「なんていうか、札と戯れるように愛でながら、自分も札に愛されてるって感じがする。あたしも早くあんな風になりたい…………」


 千里が頬杖をついて、目を細めつつ、うっとりとした表情で光輝の佇まいを眺める。


(札に、愛されてる…………? 愛する、愛されてるって、なんですの?)


 今の千里の「愛されてる」というフレーズを聞いたさやかの中で何かがうずいた。あの決勝戦で光輝に敗れた時に感じた胸のチクチクのようなものを感じて、光輝の姿をまっすぐに見つめる。


「あれ~? さやかちゃん、四条くん(のかるた)に惚れちゃった~? あなた、かるたはつまらないけど、女の子としてはおもしろいな~」


「そ、そんなのじゃありませんの…………わたしはただ、あの人に負けた敗因が知りたいだけですの」


 口調は平静を装っているが、真っ白な肌をした顔が少し紅潮している。その様子を見た結姫と新条が珍しいものを見たのか「ほぅ」という表情をしている。


「いいんだよ~、さやかちゃんも四条くん沼に入ろうよ~」


「暑苦しい……けっこうですの。やっぱり、あなた、嫌ですの」


 そんなやり取りが行われてる間に読手が試合を進めるために下の句を詠み始めたので、4人とも瞬時に口を閉じて、試合の方に視線と意識を戻した。

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