決勝トーナメント1回戦 vs.青森代表②~試合前のできごと~
ややウェーブのかかったセミロングの黒髪と夏なのに雪のように肌が白い人形のような女子高生。服装は黒を基調としたゴシック調のフリルワンピースにケープを羽織り、その白い肌をさらに際立たせる。競技時も着物やジャージは黒一色だったので、黒い服装が好みなのだろう。
「石崎は普段はわたしの片腕のような存在、従者ですの。わたしは一応、主君としてお目付け役も兼ねてますの」
さやかがアイスを小さな口でハムっと頬張りながら、丁寧かつのんびりとした口調で話す。
「でも、今日はそれよりも…………」
さやかがチラッと見たのは高校選手権の決勝で敗れたスラーっとした男子高校生。
「やはり、気になりますの。あの人のこと」
無意識に光輝の姿を目で追っていた。
「そっか~。さやかちゃんにも四条くんのかるたの魅力がバレてしまったか~♪」
「そ、そういうのじゃありませんの」
さやかを揶揄うように言う千里はどこかうれしそうかつ愉快である。推し活の仲間を見つけたような感覚なのだろう。ただ、さやかはそんな千里からの揶揄いを不愉快に感じているが。
「じゃあ、なんで、四条くんのこと気になるの~? 気にしてないんだったら、おとなしく東京代表の試合だけ見ればいいじゃない? ん? ん~?」
憎たらしい笑顔を向けて、千里がさやかを問い詰める。
「だから、あなた、苦手ですの。かるたもわたしの音を乱して…………」
「あたしはさやかちゃんと仲良くしたいと思ってるんだけどな~。それに勝手に乱れてるのさやかちゃんじゃな~い?」
「馴れ馴れしい。本当に嫌な人ですの」
さやかはいつも通りの人形のように無表情の面を崩さないが、その口調からは相当嫌がっているのは明らかなのだが、本気で嫌っているというわけでもなさそうだ。
ただ、さやかが悪態で返しても千里はマイペースにあっけらかんと独自な世界を作って対応する。現クイーンを相手にしても物おじしないどころかペースを握っているところは千里も相当な大物である。
「ところで花山さん。四条はあの後、右腕に影響はなかったか?」
「はい、新条さんの見立てどおり、痛みは翌日にはなくなって、練習もその日から再開しました。でも、それ以外でちょっと…………」
「なにか、問題でもあったのか?」
「あの後、周囲がどうしても盛り上がっちゃいまして……何度も同じことを聞かれたり、話したりすることに辟易とした様子で、メンタルはけっこう乱れてました」
「無理もないな」
「それよりも目黒さんとの決勝戦の取りがあまりにも自分でも神がかりすぎてると思ったようで…………その感覚を思い出すと取りが崩れちゃうから、あの時の力を追い求めつつも忘れようと思って、そのジレンマに苦しんでる感じでした。強化練習ではあまり目立ちませんでしたが、私との練習ではその面が悪い方に出ていました」
(そっか。花山さんクラスだと、その辺りを見逃さないから四条くんは勝ててなかったのか…………)
昨日、千里が不思議に思っていた光輝が結姫に勝ててないという疑問に対して、結姫が最近の練習での調子や様子も交えて話してくれた。
「でも、あたしと昨日、試合した時はそんな感じしませんでしたけど……」
「昨日、上村君と取ってた時ぐらいに普段に近い感じに戻ったかな。一色さんは昨日、みーくんと取ってて、どう感じた?」
「うーん、楽しかったです!」
「あ、そう…………」
千里があまりにもストレートに感想を言うので、結姫は目を点にして苦笑した。
「そうですね~。本質的な強さは変わらないんですけど、前と違うのは少しかるたがわがままになったかな。四条くん本人もそんなこと言ってたような気がしますし、花山さんも取りが自立したって言ってたそうじゃないですか」
「うん、そうなんだけど、それ、もしかして、みーくんから聞いた?」
「はい!」
満面の笑みで返事をする千里に結姫は「あとでとっちめてやるか」と光輝に対し、どこかモヤっとしたものを抱き、ボソッとつぶやいた。
「なるほど、取りが自立した、かるたがわがままになったか…………おもしろい、俄然、興味が湧いてきたな」
「ええ、まだ未完成ですけど、新しい四条光輝を見せてくれると思います。ご期待に添えるといいんですけれど」
そんな新条永世名人、目黒さやかクイーン、花山結姫、一色千里のA級トップレベルの女流選手2人の4人組によるやり取りが行われる中、階下の体育館スペースではオーダー表が読み上げられ、5人が指定された席に着くところだった。




