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決勝トーナメント1回戦 vs.青森代表①~試合前のできごと~

 岐阜滞在3日目の朝。光輝(みつき)は前日と同じく、朝食が振舞われる宴会場にはいかずにホテルの食堂へ向かい、今日も勝負飯であるきつねうどんを食す。しかし、今朝はなにか落ち着かない。


「なぁ、食べづらいんだけど」


「そうなの? あたしなんか、気にせずに食べていいのに」


 光輝の向かいには今日も千里が食堂におり、テーブルの上で両手で頬杖をつきながら、満面の笑みできつねうどんを食べる光輝を眺めていた。

 アイドル並に整ったルックスを誇る千里のぱっちりとした目に見つめられながら、きつねうどんを食べるのは男としてあまりにも気恥ずかしい。


「ほらー、早く食べないと、時間になっちゃうし、うどんも伸びちゃうよ~」


「ていうか、お前は食べないのかよ」


「あたし、今日は試合ないも~ん。四条くんが食べてから、ゆっくり食べるからいいの」


 気ままに振舞う千里にやれやれと呆れつつも光輝はちゅるちゅるとうどんをすすっていく。千里はそれをニコニコしながら眺める。何が面白いのか、気恥ずかしさを感じつつも、実際に時間が迫っているのも事実なので、観念してうどんを千里の前で平らげるしかなかった。


 朝食を食べ終えた面々は荷物をまとめて、おなじみとなった試合会場であるレインボードームへと向かうバスに乗り込む。もう、このホテルへは戻ってこないので帰りの荷物や着替えも忘れないようにと後藤先生から注意があった。実際、毎年、決勝トーナメント進出チームの選手がチェックアウトしてしまったのにホテルに荷物を置いてきてしまうというトラブルが起きるらしい。

 レインボードームに到着し、畳が敷かれている体育館スペースに決勝トーナメントに進出した16都府県の代表が集まる。前日まで47都道府県の代表がひしめき合っていたので、今日はとても広く感じている選手が多い。

 すでに出場する5人のメンバーは決まっており、そのうちの一人である大阪代表の光輝が所定の位置に着いてから、観客席の方へと振り向く。


「げっ? なんだ、あの濃い集団は……!」


 てっきり、結姫(ゆき)だけかと思っていたら、その面子に驚いた。手を振っている千里までは予想できた。


(いや~、濃い人たちが集まったな~)


 結姫が苦笑いするほど、周囲の面子が濃い。千里に加えて、現クイーンの目黒さやか、新条愁永世名人もいる。


「あの~、みなさん、なぜ、お集まりに……?」


 結姫がおそるおそる聞いてみる。


「あたしは帰りの集合時間までは自由時間だから、四条くんの試合を見に来ました!」


 千里が無邪気に語る。千里以外にも予選リーグを敗退したチームの選手が知り合いや友人の応援のために残ったという人も多い。


「俺は大阪代表が予選リーグを突破したと聞いて、昨夜、勤務を終えて、すぐにこっちへ飛んできた」


 新条は多忙な専攻医の勤務の合間を縫って、わざわざ訪れたようである。


「四条の取りはこの前の高校選手権の決勝でも見ているが、あの時は審判委員長としての仕事の延長で見ていたに過ぎなかった。だから、こうやって、フラットな立ち位置で見れる機会もそうそうないだろうと思ってな。しかし、俺もそうだが、今日は珍しい客も来ていてな」


 永世名人の新条が流し目でそう言うと、その視線の先にいるのは現クイーンの目黒さやかだった。

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