どんどん、強くなるよ、四条くんは
「ぐぅっ、とにかく! 明日はお互い勝ち上がれば、東京と大阪は直接対決するな。さやかさんがいなくとも、東京には石崎良太ありというのをお前たちに思い知らせてやる!」
「四条くんに勝てないあたしに大差で負けてるような人が何を思い知らせてくれるのかしら?」
千里が現れるまで、結姫のことを侮辱されてブチギレてた光輝だったが、千里の石崎への終わらない口撃に「もう、やめたげてよぉ」という顔になっていた。
「くそっ、お前ら、覚えてろよ! 明日、勝ち上がって、俺はお前に勝つことでさやかさんや東京の強さを証明してみせるぞ!」
そう言って、石崎はロビーから少し涙目になって走り去っていった。それを眺める光輝と千里の二人が残ったロビーは急に静かになった。
「は~、なんか変な人だったね」
「それはお前も大概じゃね?」
「だって、あたし、変わり者だも~ん。重々、自覚しておりま~す」
「自分で言ってりゃ世話ねーな。なんか、お前、見てたら、逆に冷静になったよ」
自虐自慢風に言う千里に光輝は皮肉を込めながらもすっきりとした表情で言う。実を言うと、光輝は岐阜へ来てからというもの、ずっと「目黒クイーンに勝った男」という風に見られたり、実際に言われたりして、話に尾びれがついたりすることも含めて、勝手に腫れ物扱いされることにストレスを感じていた。自然体や等身大の自分を見てほしいという思いを持ちながらも無理なんだろうというジレンマに悩んでいた。
その中で千里も光輝を必要以上に買い被っているものの、いつも通りというか、この前の高校選手権と同じノリで自然体で接してくれている。そして、光輝も少しずつ彼女の独特なノリに慣れてきたのもあって、ここへ来てから、千里に振り回されるようなやり取りに心地よさを感じていた。
「ゆき姉をあんな風に言われたのは絶対に許さねーけど、あいつ、俺がクイーンに勝ったのがまぐれで、強いなんて微塵も思ってないって言われても納得しねーだろうなー」
「あたし、四条くんがさやかちゃんに勝ったのまぐれなんて思ってないよ」
「いや、それはさすがに無理があるって。あの時、右腕が攣ってて、思うように動かなかったのはお前も見てただろ? でも、急に何かに導かれるように腕が動いてさ、あんな神がかったような取りは二度と取れないと思ってる。こんなのまぐれ以外の何物でもねーよ」
「仮に今はまぐれだったとしても、あたしはあれが四条くん本来の実力の一部だと思ってる」
「え?」
「あたしの勝手な推測なんだけど、四条くんって小学生の頃はうっすらと名人になりたいって夢見てたと思うの。ちがう?」
「ま、まぁ、いずれは…………とは思ってたけど」
「元名人のお父さん、花山さんっていうクイーンめざせるお手本が身近にいて、表舞台から離れててもどこかで無意識では名人をずっとめざしてて、しかも類まれなセンスを持ってて…………そんな人が才能やセンスに溺れずに何年も練習してたんだから、あれほどの技術や強さを持っててもまったく驚かないわ」
「たしかにずっとゆき姉と練習はしてきたし、それに見合う強さぐらいは身に着けようとは思ったけど、そんな高い志を持って練習してはなかったよ」
「四条くんの中ではそうだったかもしれないけど、普通の人から見れば並大抵じゃない意識で練習してたのは想像できるわ。その間に理想の四条くんのイメージがあって、そのイメージ通りの試合が無意識にできたんじゃない? あたしはそう思ってる」
「自分の中ではそういう感じではなかったけど……」
「ふ~ん、そうなんだ。でも、今日、試合やってみてわかった。強さの本質は変わらないし、むしろ、前に進んでるかな。今はイメージ通りじゃなくても、絶対にもっと強くなる。どんどん、強くなるよ、四条くんは」
光輝は今の千里の自分への個別寸評は過大評価とは思いつつも、決して茶化した雰囲気ではなく、本気で言っているのだと感じた。




