お前ごときが花山結姫を語るんじゃねーよ③
一触即発のムードになるが、お互い、手荒な真似はしない理性は働くのか、にらみ合いが続く。
そんな空気の中、お構いなしに気を取り直した千里が再び光輝のもとへと近づく。
「四条くん、今日もここにいたんだー?」
そして、千里がエアーブレイカーとして間に割って入った。
「お、おぉ…………」
こんな空気でも変わらぬ千里の自分を呼ぶ声に毒気を抜かれた光輝は表情がいつもの穏やかかつボケーっとした感じに戻る。
「お前、一色千里か」
「え?」
石崎が割って入った千里を見据え、名前を呼ばれた千里も石崎を見据えた。
石崎の目には高校選手権の準々決勝で束負けした悔しさと雪辱への執念が宿っている。それを正面から受けた千里は、
「え、この人、誰?」
千里の一言に光輝と石崎は思わずひっくり返りそうな表情になった。
「お前、失礼なヤツだな。この前の高校選手権で当たってただろ」
「え? そうだっけ?」
「しかも、準々決勝でさ。あっちはお前のこと、めっちゃ知ってるっぽいぞ…………」
「いや、そんなこと言われても覚えてないしなー。あ、でも、四条くんとの試合はめっちゃ覚えてるよ~。1枚目が『しら』で空札で~…………」
千里は頭をひねって、必死に記憶を呼び戻そうとするが、そもそも光輝や特定の選手以外は千里にとっては有象無象の連中に過ぎず、眼中にないのである。
「そ、そうか…………覚えていないか…………ま、まぁ、仕方あるまい…………あれが初顔合わせだったし、俺も大差での負けだったからな。印象に残らなかったのも無理はないか…………」
石崎が眉間に皺を寄せて、指を額に当てつつ、残念そうな口調で言う。
「いや、たぶん、取っててつまんなくて、印象に残らなかったんだと思うよ」
「ぐぅっ…………!」
(うわー、千里、容赦ねーなー…………)
さっきまで石崎に対し、敵意を剝き出しにしていた光輝だが、あまりにも千里のぞんざいな扱いに次第に怒りよりも同情を禁じ得ないようになっていた。
「一色千里、お前、どこまでも俺をコケにしやがって……! あの時も相手の俺よりも隣でやってた四条の試合の方ばかり見ていたよな! 俺なんか眼中になかったように!」
石崎がわなわなと怒りに震えながら、千里に向かって叫ぶ。
「うん」
しかし、千里はそんな石崎の剣幕にもどこ吹く風だ。
「隣で四条くんのアートのようなかるたが見れるまたとない機会だもん。それなのに、目の前のつまらない試合なんかに構ってる暇なんかないわよ。だから、さっさと終わらせてやったわ」
(いや、俺、この前といい、今日といい、この女によく勝ったな、ほんとに……)
さっきから千里の口から出る言葉を聞いて、とんでもない芸当をしてるのはそっちだと光輝は戦慄した。さやかに勝ってからというもの7年前を彷彿とさせるように光輝を「帰ってきた天才」と評する声も出てきていた。
ただ、光輝からしてみれば、千里の方が実績、実力、素質ともに天才といっていい。直接、対峙しただけにより実感してしまう。
「くそ、どいつもこいつも四条、四条と…………!」
「だって、四条くんのかるた、本当に美しいし、かっこいいし、天井知らずだしで、見てもよし、実際に取るとなおよしだからね。その価値がわからないあなたの感性やセンスをあたしは疑うな」
「ふん、お前もさやかさんに勝ったから注目しているだけのミーハーだろう?」
「は? あんな、つまらないかるた取るお人形に勝った程度で、四条くんの価値が上がるわけないじゃない」
「なっ…………! つまらない、お人形だと…………?」
今日の千里はとことん容赦がない。さやかを慕う石崎が絶句するが、千里の口撃は止まらない。
「あたしは小学生の時からずっと四条くんのかるたに憧れてるの。そんじょそこらのにわかと一緒にしないでほしいかな」
光輝はストレートにそう言われて、素直にうれしいのだが……
石崎への容赦ない口撃に「コイツだけは敵に回したくねーな」と同時に思うのだった。




