お前ごときが花山結姫を語るんじゃねーよ②
しかし、実際に対決した光輝はその声もあながち間違いではなく、さやかが真のクイーンになるには何かが足りないのだとも直感的に感じていた。おそらく、永世の名人・クイーンを目指すうえで鬼門になるという初防衛、4連覇の壁にぶつかるのではないか。批判している人の中にもそのように感じている者もいるのだろう。
「なら、お前がその悩みとやらを直接、聞いたらいいじゃねーか。この前の高校選手権の様子やさっきから話を聞いてる限り、それぐらい言い合える関係なんじゃねーの?」
理不尽に突っかかられていることにモヤっとした感情を吐き出すように言った。
「いや、俺ではその役目は果たせない。さやかさんには俺の言葉は届かない」
「は? なんじゃ、そりゃ」
「俺にその資格はないということさ」
石崎の返答にまったく要領を得ない光輝は意味不明な要求をしてくるカスハラ客を相手しているような気分になってくる。
「そんなもんは彼女自身が決めることであって、お前が決めることじゃない。大体、さっきから聞いてりゃ、年下のくせにさやかさん、さやかさんって、ガキの頃からの付き合いの割に他人行儀だなー? そういうとこ、信頼されてないから、お互い何も言えてないんじゃねーの?」
光輝ははっきりしない石崎の物言いについに溜めていたものをぶつけた。
「お前に俺とさやかさんの関係を口出しされる筋合いはない」
「あー、関係ないね」
「いや、お前には関係がある。さやかさんは最近、お前のかるたを気にするようになった。ただ、自分に勝った相手だからと言うだけの理由でもないようでな」
「知るか、そんなもん。本人が気にするのはけっこうだが、お前が勝手に俺とあの子を関連付けるな」
「だいたい、四条元名人の息子というだけで、ほとんどは花山結姫の影響だとか。まったく、そんな選手の手ほどきを受けたところで底が知れているというのになぜ、あれだけこだわるのか理解できないよ」
「あ? お前、今、なんて言った?」
ここまでつとめて適当に返してきた光輝だが、今の石崎の言葉には聞き捨てならず、すっと、ソファーから立ち上がり、上背を生かして石崎を威圧するように見下ろしながらどすの効いた一言を漏らした。
そんなピリついた空気が漂う中、通りがかった者が一人。
「あっ、今日もここにいた」
光輝を探してホテル内を徘徊していた千里が現れた。ちなみに今日は旅館浴衣ではなく、カジュアルなルームウェアを着ており、光輝を見つけるとロックオンするように彼のもとへと近づく。
「おーい、四条く~ん…………って、なに?」
そして、ちょうど千里が通りがかったタイミングが石崎にガチギレ気味な感じで光輝がソファーから立ち上がったところだった。
「お前ごときが花山結姫を語るんじゃねーよ」
千里が光輝のもとへと近づこうとしたとき、ちょうど、光輝は語気を強めて、石崎に言い放った。
怒鳴っているわけではないものの、光輝の口調からは静かにだが、怒りの感情がこもっていた。
千里はおそらく、この石崎という男が結姫を下げるような発言をして、それが光輝の逆鱗に触れたのだろうと察した。
「俺を、ごとき、だと……?」
「ゆき姉、花山結姫の強さも理解できないようなヤツが何をぬかしてんだよ。お前が今言った底が知れてるっていうその言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
そう言って、光輝は石崎を鋭い眼光で睨みつける。




