総文祭2日目 予選リーグ第3試合 VS.山口代表⑨(試合後のやり取り)
「え、四条くんが勝てないって? うそでしょ? 調整も兼ねてるからよね?」
「いーや、けっこうガチでやってる。むしろ、ゆき姉の方が調整してんじゃねーかってぐらい。最近、余裕ないって言ってたけど、どこまで本気なのやら…………」
「やっぱ、強化練習の時って、相当、手抜いてたんか?」
「手抜いてたっていうか、俺たちの練習のための取りって感じかな。俺含めて、指導役は慣れてるしな」
それぞれの疑問に光輝が務めて冷静に答える。
実はほぼ、毎日取ってる光輝でさえ、結姫の強みはいまいち理解できていない。ただ、理解できているのは安定感のある取りに加えて、相手の級や強さに合わせて取り方を自在に変えられるぐらいに器用な点だ。
A級同士のガチ試合では基本に忠実な攻めがるたを軸にするが、相手や場合よっては守りがるたもできれば、定位置も利き腕も逆にして取ったりすることもできる。なんなら、自陣の札の定位置も8つぐらいある。
欠点と言えば、目黒さやかクイーンのような正確無比の速さ、千里のような独特の感じといった絶対的かつ特徴的な武器がないことだろうか。そのため、A級の入賞実績こそ豊富だが、優勝回数は同門の桑野舞に水をあけられている。
ただ、結姫は他のA級選手はもちろん、自分にはない何かを持っているのはたしか。でも、それがよくわからない…………というのが現時点での光輝が考える花山結姫という選手像である。
「ふーん、四条くんでもなかなか勝てないんだ、花山さんって」
「手の内、よく知ってるっていうのもあると思うけどな」
千里が気になる仕草をしていると、実行委員から予選リーグと読手コンクールの結果発表、決勝トーナメントの抽選を行う旨のアナウンスが入り、各都道府県の代表は所定の位置に並ぶように促される。
光輝と仙崎も大阪代表と合流し、列に並ぶために移動し、千里は山口代表の列へと移動しながら、この場から去り行く光輝を見つめる。
「あーあ、また負けちゃったな…………これじゃ、四条くんにあたしを見てもらえないや」
と、千里が漏らし、光輝との次なる戦い、小さい頃から変わらぬ憧れに思いを馳せていた。
「千里様!」
列へと引き上げてきた千里を山口代表のチームメート、先ほど試合外のメンバーだった下級生の女子たちが憧憬の眼差しを持って出迎えた。それに千里はきょとんとする。
「千里様の先ほどの試合、敗れはしましたが、素晴らしかったです!」
「そりゃそうよ。あたしの競技人生の中でトップ3に入るくらいの試合だったんだから」
さらりと言う千里に山口代表のメンバーたちがさらに目を輝かせる。
「でも、だからこそ、勝たなきゃダメなのよ。2年生以下は来年、がんばってね。こんなわがままで自分勝手な主将より、いい主将にはなれると思うから」
千里は若干、自虐気味に言う。
「いえ、そんなことはありません! 千里様は立派に主将としての役割を果たされました!」
「ええ……? だって、あたし、いきなり、メンバーに割って入ってきたし、迷惑じゃなかった? それに結局、チームも勝たせることもできなかったし……」
千里の自虐を遮るように言うメンバーの一人に対し、千里は困惑した様子で語る。
「たしかに最初は戸惑いました。でも、クイーン候補の人と一緒に練習できた時間は短い間でしたが、とても有意義で、素晴らしいものでした! 実力は遠く及びませんでしたが、それでも私たち、千里様のかるたを間近で見るだけで成長できたんです!」
そう言うと、「私もです!」と続き、それを受ける千里は少したじたじとなるが、まっすぐに受ける感謝の言葉にはまんざらでもない様子で一色千里主将の周りには輪ができていた。
(四条くんみたいにチームを引き上げることはできなかったけど…………あたし、主将としての仕事はできたのかな? やり残したこといっぱいあるなー。あたし、高校卒業したら山口、離れるだろうけど、この子たちのためにもたまには帰ってあげますか)
光輝との対決を目当てに岐阜まで来た千里だが、それ以外にも勝ち負け以上に大切なものを得たのかもしれない。




