総文祭2日目 予選リーグ第3試合 VS.山口代表⑥
さて、試合は全体的に段位で勝る大阪代表が優位に進める。一方、1番席のA級同士の対決は期待通りのハイレベルな攻防が繰り広げられる。
立ち上がり千里が4枚目「なにし」を相手陣左で攻め取り、5枚目「あわれ」を自陣左で守れば、光輝もすかさず10枚目「す」で相手陣右を攻め、11枚目「みかの」を自陣左でキープ。その後も両者取り合って、光輝21-20千里と光輝が1枚ビハインドの局面から、光輝は20枚目「め」を自陣左で守り、22枚目「みか(き)」を相手陣右に攻めれば、その後も自陣の左、中央、右と縦横無尽に守り5連取。光輝16-20千里と4枚差をつけて、光輝が序盤を抜け出す。
(ふふっ、うふふ…………楽しいなぁ、四条くん! あなた、本当にあたしを楽しませるの天才でしょ!)
劣勢の展開でも試合を取りながら、不敵に微笑む千里。
高校選手権の準決勝の再現とばかりに攻めも攻めたり、守りも守ったりと光輝が突き放したかと思えば、千里も追いすがるという展開で進む。どちらも攻守に見ごたえのある取りの応酬を見せ、ゾクゾクするような伸るか反るかの試合に千里は胸を躍らせる。
千里は31枚目「かぜそ」から反撃に転じ、連取を重ねて再逆転。光輝も要所での守りが冴えて、42枚目「ながら」、48枚目「わすら」は自陣左右で守って、千里の独走を許さない。55枚目「あきか」を光輝が相手陣右中段を攻め取った時点で光輝12-8千里。この試合は序盤から中盤まで、どちらかが3~4枚差を保ちながら試合が進む。一進一退の攻防が繰り広げられつつも千里がリードを奪う展開なのは前回の対決と同様だ。
だが、ここで千里に落とし穴が待っていた。
「ふくからにー」
読手はそう詠んだつもりだったのだが、千里が払ったのは光輝陣にある56枚目「う(か)」の札。光輝はそれに少しワンテンポ遅れて、千里陣の左下段にある出札の「ふ」の札をスパッと払う。
「あ~ん、もう!」
千里がお手つき、しかもダブルを犯してしまい、思わず、やり場のない声をあげてしまう。
ただ、この席以外にも似たようなお手つきをしたところは多々あったようだ。読手の内田の声がわずかにくぐもってしまい、「ふ」が「う」に聞こえてしまったのだ。千里は思わず、不満顔で読手の内田の方をキッと睨んでしまうが、同じ条件下で、しっかり聞き分けた光輝がいる以上、気持ちの矛を収める。
(いやー、少し、反応が遅れたのと相手陣の出札だったのが幸いした…………)
聞き分けたというより、たまたま、手が出るのが(わずかに)遅れただけだったようだ。このダブルで光輝10-9千里と一気に差が縮まり、この機を逃さず57枚目「こころに」を攻めて、ついに光輝が追いつき、58枚目で今度こそ「う(か)」が詠まれ、先ほどのダブルの際に送り札として選択した光輝がきっちりと相手陣左で攻め取る。これで光輝が逆転する。
「いにしえのー」
スパンっと千里があざやかかつ軽快に自陣の右下段の端にある「いに」の札を払い飛ばし、光輝8-8千里とすかさず8枚セームに追いつく。
「うーわ、はっや…………!」
光輝が思わず、そんな言葉を漏らした。あまりの高速の取りに少し手を伸ばすだけに留まったほどの会心の取りだった。
(千里の『いに』、本当に早いなぁ…………誰も取れねーだろ、あれ)
光輝が「しゃーねーなー」という感じで飛ばした出札を拾いにいく千里を見ながら、しみじみと思う。7年前に小・中学生大会で当たった時、唯一、取られた札ではあるが、あの時とはレベルがケタ違いだ。もともと、得意札だったのだろうが、それに加えて、技術も反応も向上しているのだから、手が付けられない。
(自陣で守っても意味がないのよね~。やっぱり、四条くんの陣に置いて、きっちり抜き去る…………それができなきゃ、勝った気がしないのよね。さっき『いまは』が出た時にさっさと送っておくんだった。これは、次の機会に持ち越しね)
有無を言わさぬ守りだったが、千里の中では不満げな取りだったようだ。またしても光輝と対戦する口実を自分の中で作っていた。




