総文祭2日目 予選リーグ第3試合 VS.山口代表⑤~観覧スペースでの会話~
「なにわずにー、さくやこのはなー、ふゆ、ごもりー…………」
3試合目の読手を務めるのは東京の内田洋子。1試合目の近藤と同じく関東の読みにありがちなややテンポの早い詠み。
光輝は1試合目ほどの違和感は感じないものの、いまいち耳に馴染まない様子。千里はそもそもとして、関東での試合の経験もあるからか、こういうタイプの読手がいるのかと割り切れているようだ。
一方、観覧席で見ている結姫と控え選手御一行。
「そういえば、一色さんって、なんで、あれほど四条さんとの勝負にこだわってるんですかね?」
「私、昨日、交流会で一緒のグループだったけど、他の人とはほとんど会話しないし、感じ悪い印象しかなかったなー。だから、四条君としゃべりながら、はしゃいでるの見ると、昨日のあれはなんだったんだろうなーって」
おでこに冷えピタを貼って、少し体調が落ち着いたのか、森田が少しもやもや気味の表情で眺める結姫に問うと、山本が続けて昨日の交流会の様子を述べた。
「ただ、ひとつ言えるのは一色さんはみんなみたいにクイーンに勝ったみーくんだから、相手したいっていうわけじゃないってことよ。山本さんや他の人はみーくんに媚びてるように見えてるかもしれないけど」
「結姫さんは四条君との勝負にこだわる理由、わかるんですか?」
再度、今度は山本が尋ねる。
「私もちょっと聞いただけなんだけど、一色さんってみーくんと小学生の頃に対戦したことあるんだって。その時の強さに憧れて、今までやってきたらしいわ」
「ええっ!? それだけで?」
「小学生の頃のみーくん、それだけの強さだったのよ。この中にも小学生の頃から続けてる人なら、名前ぐらいは聞いたことあるって人がいてもおかしくないぐらいに……」
驚く山本に結姫が階下の会場全体を見渡して、しみじみと語った。
「じゃあ、一色さんって、四条さんが大会とか出てない間も四条さんと取るのをモチベーションに取ってたってことですか?」
「そういうことになるわね」
「へ~、すごい! それ、恋じゃないですか!」
「恋、なのかなー? 私にはそうは見えないんだけど……」
「いやー、恋ですよ! ほらー、百人一首にもありましたよね! えーっと、なんの札だっけ? 待ち人をずっと待ち焦がれて、身も心も恋焦がれるっていうような……」
「こぬひとをの歌ですかね? 『来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや 藻塩の 身もこがれつつ』、意訳しますと、いくら待っても会いに来てくれない人を、松帆の浦で夕凪のころに作られる「藻塩」になぞらえて、恋焦がれる切ない女心とでもいいましょうか。森田さんもそう言いたいんでしょう?」
少々、テンション高めで話す森田に国語を担当する後藤先生が即座に冷静に歌の解説をした。
意外と競技かるたをやっている人は百首の決まり字は言えても、歌の意味までは知らないという人が多い。競技にあまりにも特化している者は上の句の最初の5字しか知らないこともざらである。
「そうそう、後藤先生、それです! 7年もまだ見ぬ憧れの人を夢見て、練習してきたってことでしょ? こんなの身も心も恋焦がれるような思いで取ってたに違いないと思いますし、それが現実のものになるなんて……なんか、憧れちゃいます」
森田が熱弁した後、少しうっとりとした表情で光輝と千里の二人を眺める。
「なーに、森田ちゃん? 誰かに恋してるの?」
「ち、違いますよ! あ、あーしは、その、えーと…………」
からかうように山本が言うと、森田は慌てふためく。
「もうすぐ、試合始まるから、その話はまたホテルの部屋でね~♪」
「だから、違いますってば~!」
結姫が彼女たちのやり取りを微笑ましく見つめつつ、先ほど、話題に出てきた『来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや 藻塩の 身もこがれつつ』という権中納言定家、いわゆる藤原定家が詠んだ歌を思い出す。
(こぬひとを、か。私はずっと、みーくんと取ってたけど、大会や表舞台に立ってほしいっていう思いとかは一色さんと一緒だったかも。みーくんのことを思ってることに関しては私も彼女も同類なのかしら)
そう思うと、少し心のもやもやが晴れた気がした。
ただ、試合に臨む光輝はいつもは見せない晴れやかな表情を見て、
(やっぱり、私との相手って、そんなにつまらないのかしら?)
複雑な乙女心なのか、どうしてもそこは消化しきれなかった。




