総文祭2日目 予選リーグ第3試合 VS.山口代表②(試合前ミーティング)
「森田さんも渡辺さんもがんばったけど、やっぱり、みーくんのはたらきが大きかったわね」
結姫がそう言う中、光輝は次の試合に向けて、涼しい顔でブドウ糖の経口ゼリーをチュ~っと口にしていた。
「えらい、えらい! お姉ちゃん、なでなでしてあげる~♪」
そう言いながら、わしゃわしゃと結姫が満面の笑みで光輝の頭を撫でる。光輝は経口ゼリーを口に咥えたまま、「ガキ扱いすんな」って言わんばかりにうっとうしそうな表情をしつつ撫でられた。
第二試合の前に飲んでいた残りだったのか、容器からズボボっと中身がなくなる音を立てると、容器から口を離し、SNSをチェックしようと、スマホを取り出したタイミングでポコンと普段はあんまり来ないRIMEの通知が来た。
「げっ」
そのメッセージを見て、光輝は思わずそう漏らした。
『四条くん、ナイスゲーム! 調子よさそうだね! 次はあたしとやろうね! 1番席に座るから、よろ~』
それは次に戦う山口代表の主将・一色千里からのメッセージだった。しかも、次に戦う相手に堂々と自分が座る席順を教えるというおまけつきだ。ブラフという可能性も0ではないが、十中八九、「お前も1番席に座れ」というメッセージだと光輝は受け取った。
そして、続けて千里からメッセージが送られてくる。
『もし、席はずしたら、花山さんに昨日のこと言っちゃおうかな~♪』
ぐっ、卑怯な……!
光輝はぐぬぬ……と、そんな言葉を飲み込みつつ、スマホの画面からメッセージの送り主の方を遠目に睨むと、その実行犯である千里は不敵な笑みを浮かべた。
ただ、光輝が見ていることに気づくと、すぐに両手を合わせて、「ごめん、頼むよ~」という態度を見せる。Eブロックで唯一、予選リーグ敗退が決まっている山口代表、3年生の千里にとっても今大会、最後の試合となる。そういう思い出作りの側面として、千里の願いを受け入れるのもやぶさかではない光輝だが……
『いや、うち、まだ予選リーグ突破決まってないからさ……』
そう返信した。すると、秒で返信が来た。
『もう、決まったようなものでしょ。ところで、今から、花山さんのところに行っていい?』
うわーーー! やめろーーー!
そう心の中で叫んだ光輝は頭を抱えて、観念した様子で『わかった。1番、いく』と千里にメッセージを返した。それに千里がサムズアップのリアクションマークで返す。
2試合目の勝利の余韻はそこまでに大阪代表も予選3試合目に出場する選手や席順を決める話し合いが行われる。そして、始まった瞬間に光輝がスッと手を挙げて、
「なぁ、俺、1番でいいかな…………」
光輝が少し遠慮がちに言うと、仲間からは訝し気な目で見られる。
2試合目までは仙崎や他の団体戦慣れしたメンバーの言うままに決められたところに座るスタンスだったのが、この試合では積極的に特定の席順に座りたいといの一番に名乗り出たのだ。不自然に思わない方がおかしい。
「みーくん、1番席って一色さんが来る可能性高いんだけど、わかってて言ってる?」
結姫がジト目で光輝を見下ろして言う。さっきまで撫でていた手はアイアンクローに変わり、光輝の頭をぎりぎりと締めあげている。
「いやー、もしかしたら、最後は1番以外のところに来るかもしれねーじゃん……?」
光輝が頭を締め上げられ、苦痛に耐えながらも、目線を逸らし、どこか挙動不審な様子で返した。何か怪しいのは一目瞭然だった。
「みーくん、一色さんと口裏合わせしてない?」
光輝は思わず「え?」と漏らし、ギクッとした。この様子を見た全員が何かを察し、結姫は「はぁ……」とため息を吐きながら頭を抱える。
「まぁ、みーくんと一色さんが当たる可能性も考えてたし、仮に当たっても他の人で3勝はできるかなと思ってるけど…………」
と、言ったところで、結姫はなにか引っ掛かりを覚えて、光輝をジト目で睨む。
「それにしても、みーくん、二人で隠れてやり取りするぐらいにはずいぶんと一色さんと仲良くなったようね? 昨日、何かあったの? お姉ちゃんに言ってごらん?」
「い、いや…………ほ、ほら、あっちも同じホテルに泊まってるみたいだからさ…………」
「ふーん、私に言えないような関係なんだー?」
「別にそんなんじゃないよ。夕飯後にちょっとしゃべっただけだよ」
なんか、光輝と千里との仲を疑っている結姫だが、当の光輝はなぜ、彼女がここまで突っかかってくるのかわからない。
だが、それよりも昨日、ホテルのロビーから露天の女風呂を覗けるスポットを偶然見つけて、千里にそれを見られたことは結姫に知られてはいけないと本能的に悟っていた。
千里がこの情報のカードを持っている以上は千里との取引に応じなければならず、なんとか、正当化できないものかと考える。




