総文祭2日目 朝食の時間② 光輝の勝負飯(前)
そして、ホテルのフロント横にある食堂。そこに光輝は一般利用の宿泊客に混じっていた。もちろん、ここのメニューはホテルが宴会場で用意している食事とは別料金で自腹だ。
ズルッ、ズルッ! ズズズーッ!
そんな音を立てて、黙々と光輝が食しているのはきつねうどん。事前にメニューにあったのと、ちゃんと別料金さえ払えば、食堂の利用も可能というのは後藤先生やホテル側の人に確認済みだったので、朝食はここと決めていた。
ガブっと、なるとや油揚げを豪快に食いちぎり、続けて残ったうどんの麺もすすり、最後にかつお節と昆布で出汁をとったスープもごくごくと飲んでいく。
汁を3割ぐらい残して、ゴンっと丼を置いて、「ふぅ」とひと汗かきつつも一息つく。
「あ、ほんとにいた! おはよー、四条く~ん!」
ちょうど、食べ終えたタイミングで千里が光輝のもとへと駆け寄ってきた。
「お前、なんで来てんだよ」
「だって、四条くん、宴会場にいなかったんだもん。だから、大阪の人に聞いたら、ここに行ったって。ていうか、四条くんこそ、なんで、わざわざ食堂で朝ご飯食べてるの?」
光輝は朝からわざわざ自分を追いかけてきた千里に呆れるが、彼女の疑問はごもっともだろう。
「うーん、決まり事みたいなもんかな」
「決まり事?」
「かるたの大会や大事な用がある日の朝食はきつねうどんって決めてるんだよ」
「それって、勝負飯みたいなもの?」
「あー、そういうことになるのかな。なんとなく、自分の中では縁起がいいなと思ってたし……」
「なんで、おうどんなの?」
単純にうどんが胃に優しいというのもある。ただ、なんで、かるたの大会の朝に食べるようになったんだっけ? と光輝は頭を捻った。
正直、調理や待ち時間など面倒なことが多い。朝はできる限り惰眠を貪りたい光輝の普段の朝食はパン食である。だが、総文祭の選考会に出た日も自然ときつねうどんを用意していた。振り返れば、自分でも謎だった。
「ガキの頃からなんだよなー…………あっ」
光輝がそう言うと、記憶が呼び戻された。
小さい頃、今よりも食が細かった光輝にかるたの大会の朝に何か消化がよく、糖質も効率よく摂れるものとして、母・月子は最初はお粥や雑炊を用意したが、光輝はあの食感が気に入らなかった。
さすがに何も食べずにかるたの大会に臨むのはまずいし、そもそも育ち盛りの男子にしては食べる量が少なすぎる。月子がそんなことを悩みながら、自分の分のきつねうどんを食べようとした時だった。
「母さん、俺もそれがいい!」
「おうどんなら、食べれる?」
「うん!」
「じゃあ、みーくんとお母さんで半分こしよっか」
そう優しく微笑みながら、小さなお椀を用意して、油揚げを半分に割り、うどんの汁と麺の量は気持ち少なめによそってあげた。それを喜んで食べてから、月子は大会の朝にはきつねうどんを用意するようになり、光輝もかるたの大会の朝はきつねうどんと刷り込まれた。
そんなことを思い出し、それで好結果も残したものだから、勝負飯として脳裏に焼き付いていたのだろう。
(俺って、本当に母さんの影響受けて、かるた取ってたんだな…………)
今は一人前のサイズの丼の量を完食するほどになり、汁のみが残った器を見て、改めて、自分の本当の力の源が母・月子の存在が大きかったと、しみじみ感じる。




