【閑話㉗】冷え切った聖都の役人、床暖房とペレットストーブの虜になる
大聖女フィオナ様と大賢者タクミ様一行が聖都ルミナスを旅立たれてから、数日が過ぎた頃。
かつて冷酷な権威主義と凍えるような寒さに支配されていた大聖堂と地方検問所では、残された役人たちによる「ある真剣な日常」が繰り広げられていました――。
「ええい! そこ、もっと丁寧に拭かんか! 大賢者様が設置してくださった『抗菌防音カーペット』に埃を落とすなど言語道断であるぞ!」
かつてオラリアの街で横暴を極め、高輝度センサーライトと泥落としコイルマットに撃沈した悪徳役人・バルド代官は、いまや大聖堂の「設備管理補佐」として、鬼の形相で部下たちを指揮していた。
「バルド様……! ペレットストーブの灰受けの清掃、完了いたしました! 木質ペレットの補給も万全であります!」
「よし! 燃焼効率を落とすなよ! 大賢者様のお教えによれば、吸気口の目詰まりこそ快適な温もりを阻む最大の敵なのだからな!」
聖都ルミナスの大聖堂。
かつては冷気と威圧感が支配していた重厚な大理石の空間は、いまや『全館温水床暖房』と『大型シーリングファン』の恩恵を受け、春の陽気のような心地よさに包まれていた。
「ふぅ……それにしても、なんという温もりなのだ……」
バルド代官は、タクミが玉座から作り替えた『イタリアン本革製リクライニング・ソファーチェアー』のフカフカなクッションにそっと腰を下ろすと、ほうっと深い吐息を漏らした。
長年、冷え切った執務室での過労から酷い腰痛に悩まされていたバルドだったが、この低反発クッションと足元から伝わる温水床暖房のおかげで、持病の腰痛はすっかり消え去っていた。
「かつて我らは、民を締め付け、冷たい教義で縛り付けることこそが厳格な統治だと思い込んでいた……。しかし、どうだ。このポカポカとした温もりの中にいると、悪だくみなど考える気すら起きん……」
「おっしゃる通りでございます、代官様。いまや市民の皆様も『大聖堂の床暖房でお祈りをすると、心も体も洗われるようだ』と大絶賛でして……。毎日、大勢の笑い声で溢れております」
部下の騎士が、温かくなった床の上で嬉しそうに頷く。
「うむ……! だからこそ、この『大賢者様の遺してくださった至高の快適空間』を、我らの怠慢で損なうことなど絶対にあってはならんのだ!」
バルド代官はビシッと指を突き出した。
「おい! 窓枠の『高密度ウレタン隙間テープ』の粘着具合は点検したか!? シーリングファンの羽根に埃は溜まっておらんか! 港町から届いた『保冷コンテナ』の真空パッキンに傷はないか!?」
「は、はいっ! 毎朝の点検リストに従い、完璧にメンテナンスしております!」
「よろしい! さあ、次は国境検問所の『全自動暖房ゲート』と『中空ポリカ二重窓』の清掃作業だ! 我らの手で、この聖王国を世界一快適な国に維持し続けるのだーーッ!」
「「「オーーーッ!!!」」」
かつて威張り散らしていた役人や騎士たちは、すっかり「大賢者タクミ様のDIY設備の熱狂的メンテナンス隊」へと生まれ変わり、今日もピカピカに磨き上げられた大聖堂で、誇り高く汗を流すのだった――。
閑話をお読みいただきありがとうございました!
タクミたちが旅立った後の聖都ルミナスでは、かつての悪徳役人バルド代官たちが、床暖房やペレットストーブの快適さに完全に骨抜きにされつつ、熱心にメンテナンスに励んでおりました。




