【閑話㉖】ガルド過去編②:血塗れの大斧と、守れぬ焦燥
【閑話】ガルド過去編の第2話をお届けします!
死の樹海で限界を迎えつつあるガルド。壊れていく大斧と、寒さに震えるフィオナを前に、「切り伏せることしかできない自分の手」の無力さに苛まれる男の葛藤と焦燥を描いたエピソードです。
『死の樹海』の冷たい雨は、容赦なく二人の体温を奪い続けていた。
ザシュッ、と大音響とともに迫り来る魔獣の首を叩き斬る。
だが、返り血を浴びたガルドの視界は、己の血と汗で歪んでいた。
「ハッ……ハッ……クソがっ……!」
大斧の刃は無数の魔獣の骨と装甲を砕き続けた結果、無残に刃こぼれし、柄の握り部分にはガルド自身の血がへばりついて滑る。
背後に庇うフィオナを見やれば、かつて輝いていた聖女の衣装は泥と瘴気に塗れ、膝を折って激しく咳き込んでいた。
「ガルド……もう……私を……置いて……」
「戯言抜かすなと言ったろうがっ……! 俺の命が果てるのが先か、あんたを安全な場所へ届けるのが先か……勝負はそれからだ……!」
威勢のいい言葉とは裏腹に、ガルドの胸中は激しい焦燥と無力感に苛まれていた。
自分は『大剣士』などと持ち上げられてきたが、結局のところ、敵を斬り伏せることしかできない肉体労働者に過ぎない。
傷口を塞ぐ魔法も使えなければ、寒さに震える少女を温める術も持ち合わせていないのだ。
壊れていく大斧。破れていくフィオナのマント。
ゴツゴツと硬く、血に染まった自分のデカい手を見つめながら、ガルドは歯を喰いしばった。
(オヤジ……俺のこの手じゃ……叩き割ることはできても、姫さんの冷えた手ひとつ温めてやれねえ……ッ!)
前国王との約束が、己の無力さによって破られようとしている。
フィオナの小さく震える肩を見るたび、胸をナイフで抉られるような痛みが走った。
「守る」と口では言いながら、ただ泥を引きずり回しているだけではないか。
寒さと瘴気に蝕まれ、今にも瞳の光を失いそうなフィオナを前に、ガルドの誇りは完全に打ち砕かれていた。
「頼む……誰でもいい……! この姫さんに……温かい居場所をくれ……ッ!」
神など信じたこともない男が、血の味のする唾を吐き捨てながら、心の底から叫んだその時だった。
視界の開けた樹海の深奥に、ぽつんと立ち佇む木造の家。
そこから溢れ出していたのは、殺伐とした世界には似つかわしくない、あまりにも優しく温かな「オレンジ色の光」だった。
【閑話㉖】をお読みいただきありがとうございました!
不器用だからこそ、守れないもどかしさに葛藤するガルドの背中。
次回【閑話㉗】(ガルド過去編・完結)は、ついにログハウスへ! タクミのDIY道具と優しさに触れ、夜の焚き火の傍らで一人静かに斧を研ぎ、誓いを新たにする感動のクライマックスをお届けします! 引き続きお楽しみください!




