【閑話㉓】フィオナ過去編②:凍える絶望と、死の樹海
【閑話】フィオナ過去編の第2話をお届けします!
人類の立ち入りを拒む絶望の『死の樹海』で、瘴気と魔獣に追い詰められていくフィオナとガルド。心も身体も凍てつき、死を覚悟したまさにその瞬間、樹海の奥深くにポツンと灯る異質な温もりを目撃するクライマックス前の緊迫回です。
一歩足を踏み入れた瞬間から、空間そのものが牙を剥き出してきた。
『死の樹海』——そこは太陽の光すら届かない密林であり、禍々しい紫煙のような濃密な瘴気が立ち込める魔の領域だった。
「くっ……! 姫さん、俺の後ろから離れるなよ……!」
ガルドが大剣を身構え、襲い来る異形の魔獣たちを薙ぎ払う。
だが、切っても切っても闇の奥から這い出してくる凶悪な魔獣の群れ。さらに、呼吸するだけで肺を焼き苛むような毒の瘴気が、じわじわと二人の体力を削り取っていく。
何日、何時間が経ったのかすら分からない。
絶え間ない戦闘と逃走の中で、ガルドの全身は血と泥に塗れ、幾重もの傷口から流れる血が地面を赤く染めていた。
「ガルド……もう、十分です……! 私を置いて、あなただけでも……逃げてください……!」
泥に塗れた草むらに膝をつき、フィオナは掠れた声で哀願した。
魔力を封じられた身では回復魔法すら唱えられず、ただガルドの足を引っ張るだけの存在。足の皮は破れ、全身が鉛のように重く、意識は朦朧としていた。
「……馬鹿言うな。ここで諦めたら……あのオヤジに顔向けできねえだろうが……ッ!」
ガルドは肩で息を吐きながら、血を吐き捨てる。
だが、その膝も限界を迎えて細かく震えていた。かつて『最強のSランク冒険者』と称えられた男の剣をもってしても、この世界の理すら歪む死の魔境の前では、あまりにも無力だった。
やがて、冷たい雨が容赦なく二人を叩き始める。
瘴気を含んだ不気味な黒い雨。それが肌に触れるたび、氷の針で刺されたような激痛が走り、体温と生命力を根こそぎ奪っていく。
「冷たい……寒い……」
フィオナは小さく身を縮こまらせた。
心の奥底まで凍てついていく。父を失った悲しみ、信頼していた者たちへの絶望、そして今まさに自分たちを呑み込もうとしている死の恐怖。
(ああ……世界は、こんなにも冷たくて、恐ろしい場所だったのですね……)
神の救済など、どこにもない。古文書の言葉はただの希望的観測に過ぎなかったのだ。
自分たちはここで、誰にも知られることなく、冷たい泥の中で犬死にするのだと——フィオナは静かに目を閉じ、死を受け入れようとした。
その時だった。
「……おい……姫さん……見ろ……あそこに……何か……」
ガルドの震える指先が、樹海のさらに奥、禍々しい瘴気が奇妙なほどピタリと途切れている空間を指さしていた。
暗闇と黒雨の中、そこだけに優しく温かな「オレンジ色の灯火」がポツンと灯っていた。
そして、風に乗って漂ってきたのは、生臭い血の匂いでも腐臭でもない——心安らぐような、香ばしい『木の香り』だった。
【閑話㉓】をお読みいただきありがとうございました!
冷たい雨と瘴気に包まれ、極限の絶望に瀕したフィオナたち。
次回【閑話㉔】(フィオナ過去編・完結)は、ついにログハウスの扉が開くあの瞬間へ! 絶望の淵にいたフィオナが、タクミの無自覚なDIYと優しさに救われ、涙を流す感動の完結編をお届けします! 引き続きお楽しみください!




