【閑話㉒】フィオナ過去編①:落ちた希望と、死の樹海への旅立ち
第53話で少し語られたフィオナの過去エピソードを、全3話の【閑話】として深く掘り下げてお届けします!
第1話となる【閑話㉒】は、王都の政変、父の死、そしてすべてを奪われて追放されたフィオナと、彼女を救い出したガルドの過酷な旅立ちを描くエピソードです。
静寂に包まれた夜の果て。月光が差し込む窓辺で、フィオナは遠いあの日——自らの世界が音を立てて崩れ去った日のことを思い出していた。
かつて、フィオナは王国の『聖女』として、何不自由のない祝福の中にいた。
人々の誇りであり、病や傷を癒やす希望の象徴。厳格でありながら温かかった父である前国王と、信頼する臣下たちに囲まれ、その責任を果たそうと日々祈りを捧げていた。
だが、その平穏は一夜にして暴力的に打ち砕かれる。
権力に狂った教団上層部と裏切り者たちによる突然の政変。
密室の中で命を奪われた父。その罪を濡れ衣として着せられたのは、他ならぬフィオナ自身だった。
『偽りの聖女フィオナ! 慈悲深き王を害し、王国を破滅へ導こうとした罪、万死に値する!』
昨日まで笑いかけていた者たちが、冷酷な嘲笑と蔑みの視線を投げてくる。
捕らえられ、冷たい石牢へと投げ込まれたフィオナの手足は、魔力を封じる重い鎖で繋がれた。
すべてを失った。名誉も、家族も、人としての尊厳さえも。
暗闇の中で膝を抱え、ただ震えることしかできなかったフィオナの前に、立ち塞がる牢の鉄格子を強引に破壊して姿を現したのは、一人の無骨な大剣士だった。
『おい、姫さん! 無駄話をしてる暇はねえ、ズラかるぞ!』
Sランク冒険者にして、かつて父からフィオナの護衛を任されていたガルドだった。
血煙と鉄の匂いを纏ったガルドは、追手たちの刃をその身で受け止めながら、フィオナを背負って泥沼のような王都を脱出した。
『ガルド……なぜです……? 私を助けても、あなたには何も得はありません……。追われ、罪人として命を狙われるだけです……!』
雨の降りしきる闇の中で、フィオナはガルドの広い背中で声を詰まらせた。
だが、ガルドは荒い息を吐きながら、一度も振り返らずに吐き捨てた。
『ハッ、得だの損だの知るかよ。俺はあのオヤジ……王様からあんたを守るように頼まれてんだ。義理を欠いちゃあ、冒険者失格だろうが』
追手の手を逃れ、荒野を彷徨う日々。
王国全土に指名手配が回され、どこへ行っても居場所はなかった。人々に怯え、身を隠すフィオナの手の中で、一枚の古びた羊皮紙だけが唯一の光だった。
父の書斎から命がけで持ち出した古代の古文書——そこに記されていたのは、『世界の果て、死の樹海の深奥に眠る古の救済』という言葉。
「……行きましょう、ガルド。死の樹海へ」
「……本気か、姫さん。あそこは生きて戻った奴がいねえと言われる魔境中の魔境だぞ」
「ええ。もう私たちには、前へ進む道しか残されていませんから」
すがりつくような思いと、死を覚悟した悲壮な決意を胸に。
フィオナとガルドは、人類の立ち入りを拒む絶望の領域『死の樹海』へと、最初の一歩を踏み出したのだった。
【閑話㉒】をお読みいただきありがとうございました!
かつて「聖女」と呼ばれたフィオナが抱えていた、あまりにも凄惨で深い傷と絶望。
次回【閑話㉓】(フィオナ過去編②)は、足を踏み入れた『死の樹海』で二人を襲う過酷な瘴気と死の恐怖、そして追い詰められた限界の状況を描きます。引き続きお付き合いいただけますと幸いです!




