第44話:渇いた村の老技術者と、大気集水メッシュ
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今回登場するのは、過酷な乾燥地帯で生きる頑固な老技術者・バランド。
代官による不当な水利権の独占に抗えず心を閉ざしてしまった彼に対し、タクミの科学とDIY技術、そしてフィオナの温かい包容力と「聖女のハーブティー」が挑みます!
赤土の峡谷を進んだ先にあったのは、乾燥した土壁の家々が身を寄せ合う小さな集落――『風谷の村』だった。
村の中央にある水場には長い行列ができており、住民たちが痩せた体で空の水瓶を抱えている。だが、水汲み場を固めているのは、厳重な鎧を着込んだ武装兵たちだった。
「これ以上の水は引き渡せん! 代官ガザロフ様の命により、本日の給水は終了だ! 欲しくば明日、倍の税を払うのだな!」
「そんな……! これじゃ子供たちに飲ませる水すらないんだ……!」
激しく抗議する村人たちを、兵士たちが容赦なく押し返す。
「ひどい……! 命の源である水で人々を苦しめるなんて……」
フィオナが胸の前で両手を固く握りしめ、痛ましげに唇を噛んだ。
セナが憤々とした様子で腰のナイフに手をやる。
「ガザロフの奴ら、上流の水源を堰き止めて、あたしたちから高額な金を巻き上げてるんだ! たくみ、あんな奴らぶっ飛ばそうよ!」
「暴力で解決しても、水利権の構造を変えなきゃ根本的な解決にはならない……。それに、この空気の中にはまだ十分な『水分』が含まれている」
「え? 空気から水を取るのか? タクミ、そんな魔法みたいなことができるのかよ?」
ガルドが目を丸くする。
その時、村外れの古い水車小屋から、ドスの利いたダミ声が響いた。
「ハッ! 外の甘ちゃんどもが、寝ぼけたことを抜かすんじゃない!」
姿を現したのは、白髪交じりのヒゲをたくわえ、片目を眼帯で覆った背の低い老人だった。使い古された工具ベルトを腰に巻き、頑固そうな眼光でタクミたちを睨みつける。
「バランドじいちゃん!」
「セナ、余計な外人を連れ込んでくるなと言ったはずだ。空気から水だと? 昔、わしら技術者がどれだけ試して失敗したと思っている! この乾いた風から水など取れるわけがねぇんだ!」
老技術者バランドは吐き捨てるように言い放つと、背を向けた。
セナが悔しそうに拳を握りしめる。
「じいちゃんは昔、村のために水引き風車を作ろうとしたんだけど……ガザロフたちに壊されて、それ以来ずっとあんな調子なんだ……」
「過去に傷を負っているのですね……」
フィオナがそっとバランドの背中を見つめ、静かな決意を瞳に宿した。
「タクミ様。バランド様の言葉は、これ以上誰も期待して傷ついてほしくないという『優しさの裏返し』です。だからこそ……本物の水を作り出して見せましょう!」
「ああ! フィオナ、手伝ってくれ!」
タクミはすぐに【万能資材目録】を開き、資材を取り出し始めた。
「谷を吹き抜ける風は極度に乾燥しているけれど、夜間から朝方にかけての寒暖差で、微量な水蒸気が必ず発生する。それを効率よく捕集する網――『大気集水メッシュ』を作るんだ!」
タクミは極細に加工した竹繊維とサボテンの撥水コラーゲン膜を交差させ、三角錐状の微細な網目構造を持つ特殊メッシュを織り上げていく。
「フィオナ、サボテンの抽出液でメッシュの表面を『親水性』と『撥水性』の親和パターンでコーティングしてほしい!」
「はい! 水滴が網目に引っかかり、大きな滴となって自然に落ちる仕組みですね!」
タクミの加工技術と、フィオナの緻密な薬学・生体知識が完璧な手際で融合していく。
数時間後――風の通り道である崖の隙間に、巨大なエメラルドグリーンの集水用帆布が張り巡らされた。
夜が明け、谷に冷たい風が吹き抜けたその時――。
――ぽと……ぽとぽと……ザーッ!!
「な……水が出たぁぁぁっ!?」
巨大な集水メッシュの底に設置された竹筒から、澄み切った冷たい水が勢いよく溢れ出し、備え付けの大きな貯水槽をみるみるうちに満たしていく!
「すごい! 網から水がボトボト落ちてくる! たくみ、すごいや!!」
セナが大はしゃぎで水に飛び込み、喉を潤す。村人たちも歓声を上げて集まってきた。
その光景を、水車小屋の影から目を見開いて注視していたバランドの元へ、フィオナが静かに歩み寄った。
彼女の手には、タクミの蒸留器で淹れたばかりの温かいハーブティーが握られている。
「バランド様。夜風が冷えますから、こちらをどうぞ」
「……けっ、おためごかしはいらん。わしを嘲笑いに来たのか?」
「いいえ。バランド様がずっとこの村を守り、技術の灯を消さずにいてくださったから、私たちが来られたのです。……このお茶は、村を想うあなたの頑固な優しさに淹れたものです」
フィオナのどこまでも深く、温かい笑顔。
バランドは言葉を詰まらせ、フンと鼻を鳴らして湯気立つカップを受け取った。
一口飲んだ瞬間、清涼感のある甘みと温もりが、長年頑固に固まっていた胸の奥をじわじわと解かしていく。
「……ちっ。甘ったるくて、口うるさい娘だ」
そう呟いたバランドの目には、うっすらと光るものがあった。
「おい、そこのたくみとかいう若造! その妙な網の耐久性を補強するには、この谷の赤銅鉱を混ぜた骨組みが必要だ! わしが教えてやるから、さっさと準備しろ!」
「バランドさん……! はい、よろしくお願いします!」
ツンデレ気味に立ち上がった老技術者を前に、タクミとフィオナは顔を見合わせ、晴れやかに微笑み合ったのだった。
第44話をお読みいただきありがとうございました!
タクミとフィオナの「大気集水メッシュDIY」と、フィオナのハーブティーがバランドの心を動かすシーンはいかがでしたでしょうか!
次回第45話は、水利権を奪われた代官ガザロフによる本格的な襲撃と妨害!
村を守るため、バランドの知識×タクミのDIY×フィオナの防衛魔法が激突します!




