第41話:泥流決戦と、地質を変形させるスラッジ・ロック
第41話をお読みいただきありがとうございます!
無電源の竹製サイフォン水門で見事に大氾濫を防いだタクミたち。
しかし、水の後ろから押し寄せてきたのは、すべてを呑み込み押し潰す大量の「粘性泥流」でした!
タクミとリゼットは、湿地の泥そのものを化学反応で硬化させ、絶対不可侵の防壁へと変形させる「土質改良DIY」で決戦に挑みます!
「水門の排水速度が落ちています……! 上流から押し寄せた超高粘度の泥流がサイフォン管の吸入口に詰まり始めていますわ!」
豪雨と怒濤の濁流の中、リゼットの悲鳴のような声が響いた。
竹製サイフォン水門は水の排出には完璧な威力を発揮したが、ドロドロとした重たい土砂と泥の固まりまでは吸い上げきれない。泥流は壁となって水門を押し潰さんばかりに膨れ上がり、ギシギシと竹フレームが悲鳴を上げ始めていた。
「このままだと泥の重量で水門ごと木道と高床小屋が潰される……! タクミ、どうする!?」
ガルドが両腕の筋肉を膨らませ、大斧の柄を固く握りしめる。
「泥を外に捨てるんじゃない……『泥そのものをカチカチの壁に変える』んだ!」
タクミの力強い宣言に、リゼットがハッと目を見開いた。
「泥を……硬化させる!? ですが、この広大な泥流を短時間で固めるなんて、魔法でも使わなければ――」
「魔法じゃなく『化学反応』です! 湿地の粘土質泥土に、ヤシ殻を高温焼成したアルカリ灰と、貝殻から精製した消石灰を適切な比率で混合・撹拌します! 泥に含まれるケイ酸・アルミナ分と反応し、強固な水和化合物を形成する『ポゾラン反応』を起こすんです!」
「ポゾラン反応……! 土質改良技術による泥の瞬時硬化ですわね!?」
リゼットの理系脳が一瞬でタクミの狙いを理解した。彼女は濡れたノートを叩くように開くと、すさまじい速度で計算尺をスライドさせる。
「たくみさん! 湿地の粘土比率は約35%! 消石灰とヤシ殻灰の最適添加率は重量比で8.5%です! これで三分以内に圧縮強度5メガパスカル以上の『泥質改良ブロック(スラッジ・ロック)』が完成します!」
「完璧ですリゼットさん! バアルさん、ガルドさん、配合材を投入して撹拌をお願いします!」
「おうよ! 泥仕事なら任せとけ!」
ガルドとバアル、そして開拓民たちが一斉に叫び、タクミ特製の大型竹製ミキサーへと消石灰と灰を投げ込む。
【万能資材目録】と【極限加工】によって生み出された多段成形フレームに、配合された泥が次々と流し込まれていく。
――シュウゥゥゥッ……!
化学反応による微小な発熱とともに、さっきまでドロドロだった泥流が、みるみるうちに石のように硬い漆黒のブロックへと変性していった!
「固まった……! 泥が、本当に頑丈な岩のようになっているぞ!!」
驚愕するアルヴィスの前で、タクミとガルドたちは完成した『スラッジ・ロック』を積木のように幾重にも積み上げ、水門の前方に巨大な多段式防護壁を組み上げていく。
ズズズズズズ……ッ!!
後方から押し寄せた膨大な泥流の第二波が、スラッジ・ロックの防壁に激しく激突した!
――ドォォォォンッ!!
天地を揺るがす凄まじい衝撃。しかし、泥でできたはずの防壁は微動だにせず、押し寄せる泥流のエネルギーを完全に見切って受け止めたのだった。
「防壁、耐え切りましたわ……! 泥流の圧力を完全に遮断しました!」
リゼットが帳簿を掲げ、泥と雨に濡れた顔で弾けるような笑顔を見せた。
押し寄せた泥流は防壁によってせき止められ、上澄みの綺麗な水だけが竹製サイフォンを通って下流へとスムーズに流れていく。
「やりましたね、リゼットさん!」
「ええ……! たくみさんのアイデアと、私の精密計算が勝利したのです!」
喜びのあまり、リゼットはタクミの手を両手で強く握りしめた。
そして我に返り、真っ赤になってサッと手を引っ込める。
「こ、これはただの勝利の文脈上の握手ですわ! 勘違いしないでくださいね!?」
そのツンデレな姿に、雨が上がり始めた空の下、開拓民たちの大きな歓声と温かい笑い声が広がっていくのだった。
第41話をお読みいただきありがとうございました!
『スラッジ・ロック(泥質改良ブロック)』とサイフォン水門の複合インフラにより、湿地史上最大の大災害を見事シャットアウトしました!
次回第42話は湿地編のクライマックス(後編)&完結へ!
大雨が去り、泥から生まれ変わった「水上空中都市」での大宴会と、ツンデレ調査官リゼットからの意外な提案、そしてタクミたちの次なる旅立ちを描きます!




