第38話:強固な調査官と、泥上滑走ボート
第38話をお読みいただきありがとうございます!
今回は新キャラクター、王国農務局派遣の生真面目な湿地調査官「リゼット」が登場!
「素人のDIYでこの広大な泥沼が開拓できるはずがない」と高飛車に言い放つ彼女の前で、タクミの現場系DIYの知恵と魔導クラフトが本領を発揮します!
「止まりなさい! 貴方たち、そこで一体何をしているのですか!?」
木道の上で作業を進めるタクミたちの前に、凛とした張りのある声が響いた。
振り返ると、泥よけの革製ハーフコートを隙なく羽織り、メガネの奥で鋭い瞳を光らせた少女が立っていた。手元には革表紙の頑丈な帳簿と、真新しい万年筆が握られている。
「私は王国農務局から派遣された湿地調査官、リゼット・ヴァルディスです! この南の湿地帯は国の直轄管理区域……許可のない勝手な土木工作は認められません!」
「調査官さん……? 僕たちは別に怪しい者じゃなくて、この先の道を確保しようと――」
「言っておきますが、この泥沼は過去に何度も国の専門技師たちが開拓を断念した難所です! 竹を編んで石を詰めた程度の『素人の手習い』で、どうにかなるような甘い土地ではありません!」
リゼットはツンと鼻を鳴らし、タクミの作った竹網蛇籠を指差した。しかし、その直後――
「おいリゼット、その『素人の手習い』のおかげで、お前も靴を泥に沈めずにここまで来られたんだろうが」
ガルドが呆れたように笑うと、リゼットはハッとして自分の足元を見下ろした。彼女自身、タクミが敷き詰めた頑丈な木道の上にしっかりと立っていたのだ。
「くっ……! た、たまたま運良く浅瀬に引っかかっているだけです! この先は水深も増し、徒歩での移動すら不可能な底なし沼なんですよ!?」
「じゃあ、ここからは船で移動しよう!」
タクミは頼もしくニッコリ笑うと、さっそく【万能資材目録】と【極限加工】を発動させた。
近くの太竹と軽量な合板を素早く組み上げ、底が平らで水の抵抗を最小限に抑えた『平底滑走艇(エアボート風手押し舟)』を完成させる。船尾には大型の木製ファンと、小型の風魔石をセットした。
「さあ、乗って乗って!」
「な、何ですかこの変な形の舟は……!? 櫂すらないなんて――きゃああっ!?」
一行とリゼットが乗り込むと同時に、船尾のファンが心地よい風音を立てて高速回転を始めた!
平底舟は泥や雑草の生い茂る沼の上を、まるで氷上を滑るかのようにスイスイと滑走し始める。
「すごい……! 泥に脚をとられるどころか、信じられないスピードで沼の上を滑っていくわ……!」
リゼットは風に髪をなびかせながら、驚きで目を見開いた。
さらに、途中の仮設休憩所でタクミが泥沼の濁り水を汲み上げ、竹筒と砂、木炭、極細綿を重ねた『多重ろ過タワー』に通すと――一瞬にして水晶のように透き通ったきれいな飲料水が注ぎ出された。
「ど、泥水から一瞬で純水を……!? 複雑な魔導陣も使わずに、身近な素材のレイヤー構造だけで……!?」
リゼットは持っていた万年筆を猛烈な勢いで走らせ、ノートに構造図を書き込み始めた。
「信じられない……! 理論的で、かつ現場で即座に調達・再現可能な完璧なDIY技術……! た、たくみさんとおっしゃいましたね!? 私にもっとその構造を詳しく教えなさい!」
さっきまでの高飛車な態度はどこへやら、リゼットは目を輝かせてタクミに詰め寄るのだった。
第38話をお読みいただきありがとうございました!
ツンデレ理系調査官リゼットが仲間に(?)加わり、泥上滑走ボートと多重ろ過タワーで湿地攻略が一気に前進しました!
次回第39話は、泥沼の上に浮かぶ農園「水上浮き畝」の制作と、湿地に潜む巨大魔獣との遭遇に挑みます!




