第3話:網戸一枚で、伝説の魔虫が全滅した件
第3話をお読みいただきありがとうございます!
今回は、お馴染みの「網戸」と「キッチン」が登場し、異世界人たちの勘違いがさらに加速します。
「た、ただのホームセンター店員……?」
床にひれ伏したまま、フィオナとガルドは顔を見合わせた。
二人の脳内では、即座に都合の良い解釈(翻訳)が行われる。
(なるほど……『ホーム(万物の根源たる領域)のセンター(中心)を司る者』……! なんと恐ろしいお方だ。自身の神格を『店員』などと謙遜されているのだ……!)
(『ホームセンター』……世界の中心を維持する秘密結社か何かか!?)
ゴクリと生唾を呑み込む二人に対し、タクミはどこか居心地悪そうに首をかいた。
「まあ、怪我が治ったなら良かったです。お腹も空いてるでしょうし、何か作りますね」
タクミはそう言うと、リビングに隣接したシステムキッチンへと向かった。
【極限加工】で作り上げた流し台に、ステンレス風のレバー式水栓(※磨き上げた魔岩で自作)。タクミがレバーをひょいと持ち上げると――
じょぼぼぼぼっ!
「「なっ……!?」」
きれいな清流が、何もない金属の管から勢いよく湧き出した。それを見たガルドの目が飛び出そうになる。
「無詠唱での【水召喚】……! しかも、あんなに透き通った純度百パーセントの聖水を、ただのレバー操作一つで無限に湧き出させただと……!?」
「あれは秘宝『無限の水瓶』の上位神器です……! それを料理の仕込みごときにサラリと使うなんて……!」
タクミとしては「井戸水を組み上げて、自作の浄水フィルターを通しているだけ」なのだが、異世界人には神業にしか見えない。
タクミが手際よく野菜を切っていると、ふと窓の外から不穏な羽音が響いた。
ブブブブブブブ……ッ!
「ヒッ……!? この不快な振動音は……!」
「いかん! 死の樹海の極悪魔虫『漆黒の毒蜂』の大群だ! 針の一刺しで竜すら即死させる悪夢の群れだぞ!」
ガルドが青ざめ、慌てて剣の柄に手をかける。
窓の外を見れば、体長三十センチを超える凶悪な毒蜂が数十匹、黒い雲のようになってログハウスへ押し寄せてきていた。
「まずい、窓が開いている! フィオナ様、お下がりを――!」
「ん? ああ、虫が入ってくると嫌ですもんね」
タクミは包丁を置くと、風通しのために少し開けていたサッシの横から、スッと一枚の「網戸」を滑らせて閉めた。
――カシャン。
「え?」
ガルドとフィオナは固まった。
窓枠にはめ込まれたのは、ごくごく普通の黒いメッシュネット(網戸)だ。
(ば、馬鹿な……!? 板で塞ぐでもなく、ただの『穴だらけの布』で窓を覆っただけだと!? あんな網目、毒蜂の針や魔力放射で一瞬で破られる――)
次の瞬間。
ドスッ! ドスドスドスッ!
「ブギョエッ!?」
猛スピードで突っ込んできたデス・ホーネットたちが、網戸に激突した瞬間、まるで巨大な弾力ゴムに弾かれたかのように次々と弾き飛ばされ、地面に激突して白目を剥いた。
網戸の網目は、一切破れることも、歪むこともない。
「な……ッ!? なにいぃぃぃッ!?」
ガルドの叫びがログハウスに響き渡った。
「か、風と光は完璧に通しているのに、悪意ある魔虫だけを完全に選別して弾き返した……!? あ、あの細かな格子の陣法……『微細選別・絶対防魔網』か!!」
「格子の一つ一つに……超微細な神聖結界が組み込まれています……! なんという緻密な術式……!」
タクミは網戸越しに落ちていく虫を見ながら、呑気に首を傾げた。
「いやあ、やっぱりホームセンターの張替え用ネット(24メッシュ)は優秀ですね。これなら蚊やハチも入ってこないし、風が通って気持ちいいんですよ」
「ひ、ホームセンターの『にじゅうよんメッシュ』……! 神々の使う古代禁呪の名称か……!」
フィオナはあまりの衝撃に目まいを覚え、ガルドは「我が剣技など、あの網一枚にも及ばん……」と完全に膝を折った。
「はい、スープ出来ましたよー。冷めないうちにどうぞ」
手作りの木製スープボウルに盛られた温かいシチューが出されると、二人はもはや拝むような手つきでスプーンを握るのだった。
第3話をお読みいただきありがとうございました!
ただの網戸(24メッシュ)が、異世界では最強の防魔結界として絶賛されてしまいました。
次回は、二人が「この神殿の警護と掃除をさせてほしい」と押し掛け弟子になり、さらに宮廷魔導具師が噂を聞きつけて突撃してくる展開です!
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