第12話:魔王様の洗礼と、お尻を包む聖なる温水
第12話をお読みいただきありがとうございます!
今回はついに「魔王様」本人がログハウスへ降臨!
異世界史上最強の存在が、現代日本の文明の利器『温水洗浄便座』の前に敗北する回です。
「クックック……四天王ヴァルガを骨抜きにし、改心させたという『絶対不可侵の神殿』……どんな大層な場所かと思えば、ただの木造の館ではないか」
深々とした夜。ログハウスの静かな廊下に、漆黒のローブを纏い、威厳に満ちた角を戴く男――魔王軍の頂点に立つ『魔王バアル』が佇んでいた。
ヴァルガの報告を受け、その真偽を確かめるべく自ら転移魔術で密かに侵入を果たしたのだ。
「ふん、外の自動防衛陣(人感センサーと防犯砂利)は転移で無効化した。これで余の勝ち――む?」
ふと、お腹に激痛が走った。長年の魔王城での不摂生と、樹海への急な転移による緊張が重なり、急激な便意が襲ってきたのだ。
「ぐっ……おのれ、このような時に……! ええい、背に腹は代えられぬ!」
魔王は廊下の手近にあった扉――『トイレ』と書かれた木戸へと飛び込んだ。
扉を開けた瞬間、便座の蓋がスッ……と自動で開き、柔らかい間接照明が便器を照らし出した。
「なっ……!? 余の接近を感知し、自ら開口しただと……!? この便器、生きているのか……!?」
あまりの恐怖に怯えつつも、限界を迎えていた魔王は着衣を脱ぎ捨て、白い便座へと腰を下ろした。
――ふんわり。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
魔王の全身に激震が走った。
「あ……温かい……!? 極寒の魔境において、この白い座面が……まるで日だまりのように心地よい温もりを放っている……! これは……『ぬくもり固定の神聖エンチャント』か……!?」
あまりの快適さに、用を足しながら涙ぐむ魔王。だが、本当の衝撃は用を足し終えた後に訪れた。
「ふぅ……さて、紙で拭くか。ん? この壁についているボタン群はなんだ……?」
壁のコントローラーに刻まれた【おしり】【マッサージ】【乾燥】の文字。気になった魔王が、恐る恐る【おしり】のボタンを押し込む。
ウ〜ン……という静かな機械音の後。
チュキュッ! じょぼぼぼぼっ!
「ひゃうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?!?」
魔王の威厳もへったくれもない悲鳴が個室にこだました!
ピンポイントで命中した絶妙な水圧の温水流。それが汚れを綺麗に洗い流し、同時に至高の快感が魔王の脳裏を突き抜けた!
「な……なんという……! 温かい聖水が……余の最も無防備な部位を……優しく……力強く浄化していく……っ! 心が……心が洗われていくぅぅぅッ!!」
仕上げに【乾燥】ボタンを押すと、心地よい温風がお尻を優しく包み込む。
「……はぁ……はぁ……素晴らしい……。余は今まで、何という野蛮な生活をしていたのだ……」
完全に『温水洗浄便座』に魅了され、放心状態でトイレから出てきた魔王。
「あ、お客様ですか?夜分遅くにどうされました?」
廊下で鉢合わせしたパジャマ姿のタクミが、呑気に声をかける。
魔王バアルは、タクミの前に深々と膝をつき、地につくほど頭を下げた。
「神よ……! いや、大賢者タクミ様……! 我が魔王城の便所すべてに、今の『聖なるお尻洗浄機』を取り付けていただきたい! 対価なら我が財宝のすべてを差し出そう!!」
「えっ、ウォシュレットですか? 配管と電気(魔石)があればすぐ付きますけど……魔王城に施工ですか?」
「頼む……! 全魔族がお尻の幸福と平穏を得るために……どうかぁぁぁッ!」
こうして、世界の脅威であった魔王までもが、水回りDIYの前に完全屈服するのだった。
第12話をお読みいただきありがとうございました!
異世界史上最強の魔王様が、日本の誇る『温水洗浄便座』の圧倒的な快適性の前に敗北してしまいました。
次回第13話は、魔王城全体のお手洗い&水回り出張リフォーム編(魔王軍との全面和解と人類との平和協定)へと進む展開の予定です!




