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第三話

 心霊体験をした翌日。夜の九時過ぎ。私と華恋は昨日モミさんとの待ち合わせに利用したファミレスに再び来店していた。何故なら、今日もここで落ち合うことになっているからだ。モミさんと、そして、新たな情報提供者三人と。


「一人遅れてるみたいで、もう少しかかるってー」

「そっか。じゃあ先に座ってよっか」

「うん」


 待ち合わせのファミレスには今日も私たちが先に到着した。私と華恋は店員さんに、後で四人連れが来る。と伝え、広めのテーブル席に案内してもらい、ひとまず対面の席に着いてモミさんたちの到着を待つ。その間、私は同じことばかり考えた。この後の聞き込み、一体どんな情報を聞き出せるだろうか? とか。私の思っている通りの情報が出て来るだろうか? とか。そう、私は今、緊張しているのだ。昨日モミさんの心霊体験談を聞き、違和感を覚え、モミさんにこの聞き込みをセッティングしてもらった段階では、私の推理はまだまだ半信半疑の状態だったので、緊張は微塵も感じていなかった。いや、感じるはずもなかった。しかし、昨晩無理やり華恋に連れ出され、私自身も心霊体験をしたことで状況が変わった。不本意ながら、華恋が連れ出してくれたおかげで、私の推理は半信半疑から、信に傾いたのである。つまり、この後行われる聞き込みの重要度が増し、失敗できなくなってしまったということである。もしも私の推理通りの答えが聞けたなら、私の脳内に大量のドーパミンが分泌されて、私が最高の興奮を覚えるだけで終わるのだが、逆に私の推理が全く当たっていなかった場合、私の妄想暴走一人相撲だったという事実だけが残り、羞恥と憐憫にまみれ、かつゼロから推理しなくてはならないという最悪の結末を迎えることになるわけだ。それはどうしても避けたい。だから私は緊張していた。しかしこの緊張を解決する術は無い。今の私に出来ることは、ただ、自分の推理が当たっていてくれと願うだけだ。私は自信と不安のジレンマに苛まれる心にそう言い聞かせ、不毛な堂々巡りに一旦の幕を下ろし、深呼吸をした。すると、


「……結子?」


 私の対面に座っている華恋が心配そうに私の名前を呼んだ。


「ん? なに?」

「なに? じゃないよ。ずーっと呼んでたんだけど?」

「あぁ、ごめん。考え事してて」

「まぁ、昨日あんなことがあったわけだし、考え込んじゃうのは分かるよ。けどさ、私の話し相手にもなってよー。暇だよー」


 全く、子どもじゃないんだから……。というか逆に、華恋は昨晩の体験を経て何も考えることがないの? と私は思ったが、これが華恋の平常運転で言うだけ無駄だと分かっているし、それに丁度、この後行われる聞き込みの前に華恋と話しておきたいこともあったので、私は華恋の話し相手になることにした。


「分かった分かった。じゃあ今から話そ」

「いいの?」

「うん。丁度話したいこともあったし」

「なになに?」

「昨日の夜のことなんだけどさ、モミさんには黙っておいてほしいの」

「え?」


 本当は話した方が良いのだろうが、今日の聞き込みは私の思い描いている通りに、スムーズに、イレギュラー無く進行させたい。そう思った私は、私利私欲でそう提案した。


「何か考えがあるの?」

「うん。一応、今回の件はこうじゃないかなって仮説がある。だから正確には、私のタイミングで打ち明けさせて欲しい」

「ふーん。分かった。じゃあ黙っとくよ」

「ありがと」


 こういう時、華恋は詮索せずに素直に私の言うことを聞いてくれる。だから心底からは憎めないし、嫌いになれない。


「てかさー、もしかしてだけど、今日の聞き込みって、私はあんまり口出さない方がいい感じ?」

「うーん。まぁ、出来るだけ控えて欲しくはあるけど、私、話の進行とか出来ないから、昨日の夜に心霊スポットに行ったってことと、私の霊感のことさえ言わなければ、場を回して欲しいなって気はするかな」

「オッケー。じゃあ、最初の方は私に任せて。ある程度場を和ませたらそっちに渡すよ」

「うん。そうしてもらえると助かる」


 私と華恋は互いに互いの気持ちを汲み取り、聞き込みの大まかな筋道を立てた。すると程なくして、華恋のスマホにモミさんから連絡が届いた。


「もうそろそろ着くって!」

「分かった」


 それから待つこと二、三分。モミさんたちが到着した。


「すみません。お待たせしました」


 モミさんは昨日と似たような文言と共に現れた。その背後には三人の女性が立っていた。


「こんばんはー。カレンでーす」


 華恋が気さくに挨拶すると、三人の女性はこちらのことを警戒しながらも、「こんばんは」と挨拶を返してくれた。


「す、すみません。一応事情は説明したんですけど、まだ少し警戒しているみたいで」

「いえいえー。全然大丈夫ですよ。どうぞ、座ってください」


 待っている間に私の隣に移動していた華恋は、先ほどまで自分が座っていたサイドにモミさんたちを誘導する。が、人数配分的に、こちらに二人、あちらに四人ではあきらかに四人サイドが窮屈なので、モミさんは私たちサイドのソファに座ってもらった。


「さてと、それじゃあとりあえず飲み物でも頼んで、気持ちを落ち着けてからお話しましょうか。あっ、もちろん、私の奢りですよ」


 軽快かつ明朗かつ手慣れた様子で華恋が場を取り仕切る。それに対してモミさんを含めた情報提供者四人は、「ありがとうございます」と感謝して、各々好きな飲み物を頼んだ。


「どうです? リラックス出来ました?」


 飲み物が届き、四人が喉を潤したところで華恋が柔らかく話を振る。


「はい。お陰様で」


 そう答えたのは、私たちから見て真ん中に座る女性。見た感じ、年齢はモミさんと同じくらいで、印象としては、仕事が出来るクールなバリキャリ女子。と言った風。何故そう感じたのかというと、彼女は出会ってから今の今まで、全く表情を変えていないからである。


「良かったー。他のお二人は?」

「は、はいっ。だ、大丈夫です……」


 華恋の言葉に素早く、というか、まるで防衛本能のように反射的に言葉を返したのは、一番左に座る女性。私は空気になりたい。そう言わんばかりに地味な服装をしているが、恐らく、モミさんや真ん中の女性よりは少し若いと思う。私たちと同年代か、少し上くらいだろう。


「あなたは?」

「はい? あぁ、大丈夫ですよ」


 ラスト、スマホをいじりながら粗雑に答えたのは、一番右に座る女性。間違いなく、この子がネットで知り合った子だと思う。そう推理した理由は実に単純だ。他二人、というか、モミさんも私たちも含め、この場に居る全員と全く系統が違う可愛らしいガーリーな格好をしており、この場に居る誰よりも見た目が若かったからである。


「うんうん。みんな警戒レベルが下がって来たみたいですね。良かったー」


 気まずい空気にならないよう、変な沈黙が生じないよう、華恋は努めて明るく振舞い、場の空気を保ってくれている。いや、もしかしたら、彼女はこれを天然でやっているのかもしれない……。なんて華恋の観察は置いといて、私はこの隙に高速で現状を整理する。


(今のところイレギュラーは生じてない。むしろ、女性だけが来たというこの状況は、私の推理を後押ししているとさえ思える。ということは、とりあえずこのまま華恋に話を進めてもらって、全員分の体験談を聞いて、私の想定通りの舞台が用意されていたら、あとは私の推理を披露するだけだ)


 自分の推理と計画を再確認し、それらを現状と照らし合わせた結果、今のままなら上手くいく。そう判断した私は、隣で話し続けている華恋の方を見た。するとそのタイミングで華恋もこちらを見てくれたので、私は頷いて見せた。話を進めて良いという合図として。


「とまぁ、これ以上話していると脱線しそうですし、みなさんも落ち着いてきたということなので、そろそろ、一人ずつお話を伺ってもいいですか?」

「はい。私から話します」


 華恋の問いかけに一番に応じたのは、真ん中に座る女性だった。


「私があの声を聞いたのは、約一カ月前のことです……」


 女性は淡々と自分が体験した心霊現象を語ってくれた。その内容はモミさんが語ってくれた心霊体験談と大同小異であった。時刻は夜で、あのトンネルをイヤホンをして歩いていたら、その装着しているイヤホンから、「こっちに来て……」と聞こえてきた。以上。重要視している情報は、モミさんの体験談と全く同じであった。そうして一人目の聞き込みが終わると、次いで左の女性、右の女性にも心霊体験談を聞かせてもらったのだが、この二人が語った体験談も大筋は同じであった。


「ありがとうございました」


 三人全員の体験談が終わると、私たち二人を代表して華恋が感謝を述べる。


「どう、ですか? 参考になりましたか?」


 その感謝に対し、心霊体験者四人を代表してモミさんが質問する。


「そうですね……」


 バトンタッチをするなら今だろうと思ったのか、華恋は返答を濁し、溜めに溜めながらこちらを見た。ここまでイレギュラーはない。そう判断した私は、それに頷いて応える。


「はい。参考になりました。ですが、もう少し情報が欲しいです。昨晩私と彼女で考えた仮説を証明するためには」

「仮説、ですか?」

「そうです。仮説です。詳しい内容は彼女が話します」


 華恋はそう言って私にバトンを渡した。仮説を証明。という言葉は私の内にある緊張を少々増幅させた。しかしそれ以上に、その前に添えられた、私と彼女で考えた。という共に背負う覚悟の言葉が私の内から恐れを消してくれた。私は小さく咳払いし、口を開く。


「カレンのアシスタントをしている結子です。ここからは私が説明させてもらいます」


 私のお堅い切り出しにも、華恋が場を和ませてくれていたおかげか、三人は頷いて反応してくれた。私は言葉を続ける。


「さて、それでは一つ一つ解説をしながら……。と言いたいところですが、回りくどい解説は後でするとして、まず最初に、私たちの仮説を言わせていただきます。私たちが思うに、あなたたちが体験したのは、心霊現象ではないと思っています」

「えっ?」


 私の発言に全員が声を吞む中、華恋だけが驚きの声を上げる。


「あ、あれ、カレンちゃんは知ってるはずですよね?」

「え、えぇ。もちろんです。リアクションが無いと可哀想かなーって思っただけですよ。さぁ、続きをお願い」

「コホン。では気を取り直して、何故そう思ったのか。から話します。私たちがまず違和感を覚えたのは、イヤホンです」

「イヤホン、ですか?」

「はい。イヤホンが関わる心霊現象の大半は、その人の不調やストレスの蓄積が原因の聞き間違いだったり、脳の勘違いだったり、電波の混信だったりするんです。そして今回の件は恐らく、混信なんじゃないかと疑っています。その理由としては、皆さんの体験談を聞いた感じ、疲労やストレスが溜まっている。という感じではありませんでしたし、女性の声がしっかり聞こえている。という点から、脳の勘違いも考え辛いと思い、この結論。というか、仮説に至りました」

「電波の混信……。でも、今の話を聞く限りだと、消去法で電波の混信を疑っているように聞こえましたけど……?」

「確かに、今のところ電波の混信だと言い切れる証拠はありません。ですが、消去法で電波の混信だと言っているわけでもありません。一応、混信だと疑っている理由があります」

「その理由というのは?」

「信じてもらえるか分かりませんが、実は私、霊感があるんです」


 このカミングアウトを聞き、華恋以外の四人は驚きと疑いの混じった表情を浮かべる。今までの人生で何度も見てきた光景だ。私は臆せず話を続ける。


「それに加えて、実は昨晩、私と華恋はあのトンネルに行きました。そして、華恋はイヤホンを着けた状態で何も聞かなかったのに対し、私はイヤホンを着けていない状態で女性の声を聞きました。『ダメ』という女性の声を」


 解説を畳み掛けたせいか、驚きが連続しているせいか、四人は言葉は発さずにチラチラと顔を見合わせる。そして数秒後、モミさんが口を開く。


「聞いたんですか? 女性の声を、イヤホンが無い状態で?」

「はい」

「えっと、それじゃあやっぱり、電波の混信ではなく心霊現象なんじゃないですか?」

「はい。あのトンネルには霊がいると思いますし、私が昨晩聞いたのは霊の声だと思います。ですが、最初に結論を申し上げた通り、皆さんが体験したのは、心霊現象ではないと思います」

「そ、それは一体、どういうことでしょうか……?」

「ここで、私たちの仮説その二。私が聞いた声とモミさんたちが聞いた声は別物だ。という説です。私が聞いた声は本物の心霊現象で、モミさんたちが聞いた声は、電波の混信を利用したイタズラなのではないか。そう考えています」


 この仮説の発表には流石の華恋も声を上げない。他の四人も、呆れているのか、理解が追い付いていないのか、誰も声を出さない。まぁ、想定通りだ。そう思いながら私は話を続ける。


「この仮説に至った理由は、様々な違和感です。その中から、大きな三つの違和感を話します。一つ目は、モミさんたちはイヤホンからしか声を聞いておらず、イヤホンを外した状態では何も聞いていない。その逆に、私はイヤホンからは声を聞いておらず、イヤホン無しの状態で声を聞いている。という点。次に二つ目は、イヤホン無しで声を聞いた私だけ、聞いた言葉が違うという点。そして三つ目は、先ほども話した通り、昨晩、イヤホンをしていた華恋は何も聞いておらず、イヤホンをしていなかった私は声を聞いている。という点です。以上この三つの違和感を筆頭に、他にも大小様々存在する違和感から、心霊現象の声とイタズラの声が別々に存在しているのでは。という仮説を立てました。加えて今日、電波の混信を疑う理由が一つ増えました。女性だけが被害に遭っている。という点です。つまり今は、若い女性を狙ったイタズラなのでは。と考えています」


 私の推論を聞き、心霊体験者四人プラス華恋は互いの顔を見回す。


「確かに……!」


 反応を示したのは華恋だけだった。しかし間違いなく、体験した四人にも響いているはずだ。多分、後もう一押しだ。そしてそのもう一押しも用意してある。私は自分の推理と感覚を信じ、ダメ押しの提案に移る。


「ここまで色々と話して来ました。しかしこれらは全て仮説、推理です。私の話を信じるのは難しいと思いますし、信じろとも言えません。だから今から、このイタズラを暴きに行きませんか?」

「え、暴きに? 今から?」

「うん。実は、事前に罠を仕掛けておいたの」


 聞いて来た華恋にそう答えると、私はスマホを取り出し、ブラウザアプリを開き、事の発端であるブログのタブを開き、そこのコメント欄を華恋に見せた。


「これ」

「なになに……。『今夜十時頃、女友達とこのトンネルに行ってみようと思います』だって」

「これは私が書き込みました。正直、イタズラの犯人がこの罠に掛かってくれるかは分かりません。可能性は半々だと思います。ですが、真実をあきらかにするためには、行ってみる価値があると思っています。もちろん強制はしませんし、何かあった場合は我々が責任を負います。どうでしょうか」


 四人は再び顔を見合わせる。そして、


「ごめんなさい。私は遠慮しておきます」


 真ん中の女性が答える。次いで、


「す、すみません。わ、私も、無理です」

「私もパスで」


 左右の女性にも断られてしまった。流石に無理な提案だったか……。そう思った次の瞬間、


「私、行きます」


 とモミさんが答えた。


「い、良いんですか?」

「はい。企画募集にコメントしたのは私ですから。それに、結子さんのお話、説得力がありましたので」

「ありがとうございます」


 このまま妄想暴走一人相撲で終わるのかと思ったが、なんとかモミさん一人が付いて来てくれるという最低限の成果で私たちの聞き込みは終了した。

 斯くして心霊スポットへ向かうことになった私たち三人は、情報提供に協力してくれた三人に別れを告げ、ファミレスを出た。そしてファミレスから歩くこと約十五分。私たちは目的地である心霊スポットに、高架下のトンネル前に到着した。時刻は十時を少し回った頃であった。


「人影はないねー」


 周りをキョロキョロと見回しながら華恋が言う。


「うん。けどまぁ、もし来てたとしたら、わざわざ目に付く場所にはいないと思うよ」

「そ、そんなの分かってるよ。念のためチェックしただけだし。それで、ここからどうするの?」


 華恋がそう言うとモミさんもこちらを見たので、私は説明を始めることにした。


「コホン。当初の予定だと、ここでトンネルに行く組と犯人を捜す組で分かれるつもりでした。でも、流石に三人で分かれるのは危ないので、三人で中に行きます」

「オッケー」

「はい」

「で、行く前に確認なんですけど、華恋はイヤホン持って来てないよね?」

「うん、ないよ」

「だよね。モミさんも持ってないですよね?」

「はい。すみません」

「いえ。突然のことでしたから気にしないでください。それじゃあそうですね、私が持って来たイヤホンは、とりあえず私と華恋が着けます。それで、声が聞こえたらモミさんに確認してもらうって感じにしましょう」

「分かったー」

「分かりました」


 私はポーチからイヤホンケースを取り出すと、そこからイヤホンを取り出し、片方を華恋に手渡し、もう片方は自分の左耳に装着した。そして静かに深呼吸をした後、


「では、行きましょうか」

「うん」

「はい」


 三人で顔を見合わせて覚悟を決めると、私たちはトンネル内に踏み入る。


(声を流すとしたら、逃げる時間を確保するためにトンネルの中央辺りで流すのが効果的。となると、トンネルの中央に電波の混信を引き起こす何かが設置されている。或いは、トンネルの上で何かして――)


 どうやって混信を引き起こしているのか考えながら歩いていると、突如、昨晩感じた冷気が私に襲いかかる。


(この冷気……! まだ数メートルしか歩いてないのに……。じゃなくて、二人の様子は? 何も感じて無さそう。けど、これは一旦引き返すべきかも)


 嫌な予感を覚えた私が口を開こうとしたその瞬間。

 ――カシャン。

 何かが落ちた音がトンネル内に響いた。私たちではないし、前方には誰もいない。となると。私たちは一斉に振り返った。すると数メートル先、トンネルの出入り口に人影が見えた。


「誰!」


 そう叫ぶや否や華恋は走り出す。それに続いて私とモミさんも走る。するとそれに気付いた人影も走り出そうとする。しかし人影は、自分の足に引っかかって転倒した。その内に、元陸上部で空手と合気道を嗜んでいる華恋が人影のもとに辿り着き、あっさりと人影を取り押さえた。


「いた、痛いです。どいてください」

「どくわけないでしょー」


 うつ伏せで転倒し、ガッチリ華恋に取り押さえられていたのは、私たちと同年代くらいの痩せ型の男性だった。


「あなたが電波混信の犯人ね?」

「い、いやいや、違いますよ。僕はただ、感想を聞きに来ただけで」

「感想をー?」

「は、はい。ブログに書き込みがあったんです。今夜ここに来るって。それで、来た人たちの感想を聞こうと思って来たんです」


 これは自白、なのかな? 私がそう考えていると、取り押さえている華恋がこちらを見て首を傾げた。どうする? とでも言いたいのだろうか。まぁこういった場合、さっさと警察に引き渡すのがいいのだろう。とは思ったが、何か引っ掛かる気がした私は、質問をしてみることにした。


「それは、若い女性が怖がっている反応を見に来たってことですか?」

「は、反応? 違いますよ。感想ですよ。感想を聞きに来ただけなんです」


 若い女性の叫びを「感想」と言い回している異常者なのか? それとも本当に……。


「わ、分かりました。言います、素性を明かします!」


 私が次の質問に悩んでいると、男が先に音を上げた。


「ほ、僕は高木郁男たかきいくお。怪奇帖というブログのブログ主です」

「怪奇帖……。えっ。それって私たちが見たブログじゃん。てことは、ブログ主の自作自演だったってこと?」

「は、はい?」


 あまり鋭くない華恋でさえもすぐにその結論に辿り着いた。もちろん、私も真っ先にその考えが浮かんだ。しかしどこか違和感が残る……。この違和感は一体……。私が考え込んでいると、


「あっ、誰か来たみたいです」


 モミさんがそう言った。そして間も無く、


「どうしたんすか?」


 若い男三人組が近寄って来た。華恋が手短に状況を説明した。


「なるほど。したら、警察来るまで俺たちが変わりますよ」

「ありがとー」


 男の一人が華恋と入れ替わり、高木郁男を取り押さえる。


(なんかモヤモヤするけど、まぁ、後は警察に任せれば良いか)


 不完全燃焼の決着を受け入れようとしたその時、とてつもない寒気を感じ、背筋がゾワゾワッとした。すると間もなく、


「ダメ……! 助けて……!」


 昨晩よりも強い拒絶と、強い懇願? を帯びた声が私の脳内に響く。


(もしかして、私に何か伝えようとしている……?)


 芽生えた疑念が一気に膨らむ。その直後、


「今の! 聞こえませんでしたか!」


 高木郁男が突然叫び、弱々しく暴れた。


「女性の声が!」

「えっ、あなたにも聞こ――」

「ちっ、うるせぇな。おい」


 私が問いかけるよりも前に、取り押さえていた男が舌打ちをして気だるげに言うと、傍らに立っていた男が動き出す。そしてズボンのポケットから何かを取り出すと、こちらに背を向けてしゃがみ、高木郁男に何かした。すると数秒後、高木郁男は力を失い、ぐったりとした。


「え、ちょっと、何したんですか?」


 私がそう問いかけても男たちは答えない。この人たち、ヤバイかもしれない。そう感じた私が華恋とモミさんに声をかけようとしたその時、背後から羽交い締めにされた。


「なっ……」


 私は必死に逃げ出そうとするが、突然のことでどうして良いか分からない。その内に二人の男は目の前まで迫って来た。そして私の左腕を取ると、チクリと何かが刺さる感覚。


(これは多分マズイやつだ。華恋は? モミさんは? 二人に助けを呼んで……。え?)


 助けを求めようともがいたその時、視界の右の方に三人目の男に捕まっている華恋の姿が見えた。じゃあ、今私を羽交い絞めにしているのは……。私が異変に気付いた直後、


「おやすみ」


 左の耳元で女性の声が聞こえた。かと思うと、私は気を失った。

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