第8話 ―王都へ―
村を出ようと決意した時点で王都を目指すことはもう決めていた。先に出て行った兄弟たちの元へ行くでも、村に近い地方都市を目指すでもなく、とりあえず王都へ行く。
理由はない。
ついでに言うと目的も特にない。
とにかく王都へ行けば何とかなる、あの時の俺はそう思っていた。
―――あれだけ盛大に送り出されて実は近くにいました、なんてのも恥ずかしいしね。それに俺のような何もない人間は、あえて国の中心部を目指すべきなのだ。一発当てるためか、はたまた安定を求めるためか?
否、その方が圧倒的に目立たないためである。
―兵站は現地で調達せよ
村を出て二日目。王都への道は普通に歩けば半年程で到着するらしい。想像すらできない程に途方もない距離である。それに、村から出た時に用意した備蓄は残りあと三日というところ。そこから先は自力で食料を調達せねばならない。そうなると、街道をひたすら歩くというのはかえって自殺行為かもしれない。なにせ自然の恵みというものは常に、人が立ち寄らない未開の地にあるものだからだ。
それよりも魔物に遭遇する方が怖いって?
そうなんだよな、魔物。
いるとは聞いたが、実際に見た事はない。だが魔物に限らずこの世界はまだ人が知らぬ事も多い。そう考えると安易に街道から大きく道を外すのも危険か・・・。
そこで考えた末、俺はあるルールを決める。
1 まずは、とにもかくにも食料確保。
2 野宿する際の寝床は慎重に決める。
3 1、2を抑えた上で王都を目指すというものだ。
サバイバルにおいて重要なのはとにかく体力と気力の確保である。何をするにせよ、必ず体力は消耗し、そして、それに見合う食料を確保しづらいのがサバイバルの現実。無理せず焦らず、それでいて確実に進む事こそ、生存率を上げるもっとも効果的な方法だ。
まずは持っている知識をフル活用する。
まずは、その辺に生えている食べられる野草の採取。ジャイアントビーやジャイアントワームの痕跡探し。火の確保については火打石があるので何とかなる。あとは水の確保も重要か。
そう考えると、食料や水を確保できる場所を次の中継地点として設定し、そこからさらに次の中継地点を目指す。これを繰り返しながら王都へ向かうしかない。何も考えずに王都を目指そうなんて考えたが、改めて色々考えてみると相当大変な行軍になるな。
「せめて蜂煎餅が少しでも残っていればなぁ・・・」
俺は持ってきた金貨を眺める。この金貨に一体どれほどの価値があるかは計り知れないが、今の時点ではただの重たい硬貨でしかない。いざと言う時は頼りになるかもしれんが、どちらかと言えばお守りかな。
「よし、まずは備蓄確保だ」
まずは大蜂やジャイアントワームを捕まえる。大量に捕まえる必要は無いのでハエ叩きの要領で何匹か捕まえればいい。案の定、森の入り口付近でどっちも確保できた。大蜂とジャイアントワームの生息環境は相性がいい。
だが、次の段階では少し手間取った。
なにせ鉄板一式はあの洪水で紛失し、前のようにとはいかない。そこで俺は泥を練って簡単な土の板を作り、その上に葉を敷いて下から熱を通し、練り潰した蜂肉を乾燥することにした。問題はその形状である。小麦が無いので焼きあがってもすぐにボロボロになってしまう。蜂肉とジャイアントワームの肉と混ぜて合い挽きにしても結果は変わらなかった。
「やっぱり肉だけじゃつなぎがない分、脆くなるか」
結局色々試した結果、俺はあえて粉状にして袋へしまうことにした。
結果的にこの方法はうまくいったと言える。
なぜなら、虫粉と塩と野草の即席スープが簡単に作れるからだ。
はたしてこれで栄養が足りているかどうかは分からないが、長期保存も効き、現地調達の野草で味変も可能とくればまずまずの成果といえよう。それと副産物では無いが脂が大量に確保出来たことも良かった。スープに足せば脂肪分を足せるし、固形化すれば燃料にもなる。臭いが最低最悪なのはこの際耐えるしかない。
「さてと、水は煮沸でなんとかなるとして・・・」
食料問題が解決したら次は寝床である。
魔物や野生動物との遭遇を回避すると考えるなら、場所は街道沿いが望ましい。それ以外は体を冷やさないよう草を敷き詰めて、火を起こし、あとは布を一枚羽織って寝るだけ。完全に火を絶やさないために、燃えやすい薪を近くに大量に用意しておく。薪は非常に重要なので持てる分は持ち運んでいく。燃えカスの消し炭も何かと利用できるので忘れずに持っていく。
ちなみに、野営は寝れないのが当たり前程度に考えていた方がストレスを軽減できる。
ここまで来たら、あとは雨風や気温の変化に対する応急処置のみである。やる事は実にシンプル、草を集めて全身を覆えるようなフードを作ればいい。青臭い事を除けばたいていの雨水は通さないし、なにより使い捨てが利くのもいい。気温が寒くなるならそのまま乾燥するまで身に着けていれば防寒着代わりにもなる。問題はシンプルとはいえ、何事も最初はうまくいかないのでその出来栄えもヘンテコになるという事。機能は申し分ないが見栄えは良くない。おおよそでやっているので、草を一体どれだけ集めればいいのかわからず、最初の頃はまるで芋虫がもぞもぞと這いずるような恰好になっていた。重いし歩きにくいし、何より暑い。ある意味成功してるが、それで体力を消耗していては本末転倒である。
そうしてなんとか試行錯誤の末、俺は旅を続けることができた。三カ月かかり、進めた距離はわずか数百キロほど。完全に予定をオーバーしすぎている。ここから先は歩きに専念しよう。
―助け合いにご用心
街道沿いを歩くので当然、時折人や馬車とのすれ違いはある。最初こそ魔物扱いされたがどうにか蓑っぽく改良し、ようやく人間と認識されるようになった。途中で馬車に乗せて貰ったり、その日あった人と一緒に野営をする事もあった。その中で消し炭や薪は重宝した。とくに商人などは商品を明一杯馬車に詰め込む為、薪を荷物に出来ず、現地調達しようにも肝心な時にないという事が多いらしい。まぁ馬車の中で眠れるので火は必ずしも必要ないとは言うけど、寒くなればそれでも厳しい。まぁ、雪が降れば誰も旅などしない訳だが。
そうやって人との出会いが続くと自ずと情報も入ってくる。とにかく今年は日照りに洪水と災難が続いた為、街道沿いの小さな村でも橋が流されたり、家屋が崩壊したりなどする被害が出ていた。先を急ぎたい気持ちはあったが、道行く者達が自然と手伝っているのを見ていると、それを無視するのも後ろめたい気がして、結局手伝う事になる。特に橋が無ければその先に進めないとなれば手を貸さざる終えない。そこで何となく同じ作業場にいる連中と一緒になり、色々と話したりして夜を明かす。
そうして橋も完成した時の朝だった。
うーん‥‥――あれ
俺は体中を探りながら焦り始める。
ない、ない ない!!!!
「うわぁ・・・マジかよ・・・・」
散々助け合い、語り合った最終日、あの大事にしていた金貨は消えていた。
「ッ・・・まぁこいつで我慢するか」
俺はそれまで寝ていたボロボロのシーツを首に巻き付け、マント代わりにした。
金貨一枚のマントである。
大事にせにゃなるまいよ。




