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第9話 ―この世界の片隅に―



傀儡(かいらい)の少女



そう、私の運命は元より決まっていたのだ。


産声を上げたその日から。


そのあまりにも遠く離れた血脈が私にもたらしたもの。

それは、呆れ、無関心、そして――無。


誰も私の顔を見ない。


私はここにいる。


ここにいるのに、誰の目にも私は映らない。


父が私を抱き上げた。

その目も私を見てなかった。


王位継承からも程遠く、婚姻の駒にさえならない私を、誰もが――


「そこにいたのか」


とでも言うように見る。



置物。


障害。


見えているのに、気づかれない者。


それが私だった。


宮殿にいる私を、私として見てくれる者は二人だけ。


一人は、生まれてすぐに亡くなった母。


もちろん、母はもうこの世にはいない。


私が知る母は、ただ一枚の肖像画の中にいる。


そしてもう一人は、長年母に仕えていた老騎士――アルマー。


母を失った私の傍らに残り、今も私を一人の人間として扱ってくれる、ただ一人の理解者。



そんな日々が続いたある日、珍しく父に呼ばれた。

そして、その扉の向こうで父が誰かと話している声を聞いた。



「それで・・・第12王女の――――」


「ああ、あやつか。産ませたはよいが、悪い事をした」


「―――まぁ、のちに美しく育てば、他の貴族達を取り込む術ともなりましょう」


「しかし、まだ若い。あれが嫁ぐ頃には余もとうに隠居の――」


「それでしたら、その身分を生かす道を探されてはいかがでしょう。学問を修めさせるもよし、剣を学ばせるもよし。王族として生まれた以上、何か一つでも身につけさせておけば、いずれ国の役に立つこともありましょう」


「おお、そうだな。それがいい。そうしておいていずれはこの国を支えるよき臣下として、次代の王を補佐する役目を担ってもらうとしよう」



・・・その日、私はようやくその存在意義が生まれた。



成ればこそ、成れぬならそれまでの駒として、私は常に試され続ける存在となった。



プリシア・アクシアス 聖方スランティア王国第十二王女



私がこの世界で生きている証である。





―――――――――――――――――――――――――――――――



―お腹が叫んでいる



ぐぎゅるるるるる――――


変な水を飲んだ覚えはない。いつだって煮沸は完璧だった。


なのに何故、というか割と結構な確率で腹を壊しているような気がする。


この状態になると、大体の人は履いているものを脱いで考えるポーズになっていることだろう。そう、嫌でも何が原因だったのかを考えさせられるのだ。



その時、俺の脳裏には『おてあらいをきちんとしましょうね』と呟いている動物のマスコットが浮かんできた。さらに――――



おそとであそんだらめにみえないばいきんが

てにたくさんくっついているのでおうちに

かえったらかならずてあらいかうがいをしよう。


蛇口に付いてる石鹸袋からそんな声が聞こえてきたような気がした。


いくら煮沸を徹底したところで、コップの縁に菌が付着していれば腹は壊れる。いかんいかん、幼稚園の子供ですらやっている当たり前の事をすっかり失念していた。そう考えると思い当たる節は有り過ぎて困る。



ああ、目に見えないものが俺を苦しませる、悩ませる、考えさせる。



俺は神妙なポーズのまま、その目に見えぬ先を発見した前世の科学文明に、絶え間ない拍手を送りたい気分にさえなっていた。



手洗いはこまめにしましょう。



―城壁の向こうに夢の国



そして、長い長い旅路の末、俺はようやく王都をこの目で捉えることが出来た。


「・・・・でか」



そりゃ、前の世界にもお上りさんよろしく、巨大なビル群を見上げた事はある。だが、そういうものとはまた違った景色が、目の前に広がっている。



その城壁は、正方形を斜めに傾けたような形をしていた。その壁が一つの巨大な都市を覆っているのだから、その大きさに誰もが圧倒されることは間違いない。さらにその中心に、とてつもなく巨大な建造物がそびえ立っている。



「ありゃ、王城か・・・?」




サイズ感がエグすぎて実は王様は巨人でした。なんて言われても今なら信じてしまいそうだ。だが、これが俺の生まれた国の中心かと思うと、なんとなく自分さえも誇らしく思えてくる。これから何が起こるのだろうか、どんな運命が待っているのだろうか、期待させてくれるには充分すぎる規模だ。



と、感動している暇もないな。

なにせ入口までまだ半日以上はかかりそうだ。

食料も底をつきかけている、


なにはともあれまずは現地調査だ。



道中、また馬車に乗せてもらったというのに、入口の城門に着くころにはもう日は完全に暮れていた。門前町……とでも言うのか、暗くてよく見えないが城門の周りもそれなりに賑わっているように見えた。



「ようやくここまで辿り着けた……」



張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、急に睡魔が襲ってくる。


とはいえ、宿に泊まる金などあるはずもない。

今夜もいつものように野宿だ。



野宿にもすっかり慣れたものだが、その夜は久々にぐっすりと眠ることができた。


長かった旅も、ようやく終わりを迎えたのだ。





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