第4話 ―備えあれば煎餅あり―
蜂とミミズと、それに依存する俺との生活は、順風満帆に続く――
かと思われたが、思わぬ問題が発生した。
俺は納税のために、蜂の討伐をしなくてはならない。そこで得られる副産物は、極力村人に譲ったり、時折やって来る行商人にまとめて売ったりできるのでそれはそれで良し。
「うーむ、全然減らん」
問題は肉が余りまくって消費しきれないという、非常に残念な課題が残ってしまったのである。
前にも言ったが村人はおろか、家族にまで苦笑いで遠慮されるため大多数での消費は望めない。かと言ってこのまま腐らせるのも非常に勿体ない。たい肥にするという方法もあるが、何かもっと良い有効活用法が無い物かと模索する。
そういう時はふらっとお気に入りの場所へと足を運ぶ。
何かを考える時、俺にとって一番良い環境は、日陰で涼しげな一本の木の下で仰向けになり、手枕を作って目を閉じ、リラックスすることだ。静かで心地よい葉擦れの音。目を開ければ、うっすらと差し込む木漏れ日の中で、葉が視界の中をゆらゆらと揺れている。
映画やドラマなどではよくあるシーンだが、実際にやってみると本当に気持ちが良い。こういう経験のない人には、是非騙されたと思ってやってみて欲しいものだ。きっと毛虫が糸を引いてゆっくり落ちてきたりする。
さぁ目を閉じ、心を静め、リラックス。
ぼんやりと記憶の断片が瞼の裏で反映してくる。
それは前の世界でみた記憶、とある動画配信サイトのとある自然愛好家の動画・・・
それは自分で釣り上げた魚を丸ごと鉄板でプレスしている。
この世のものは潰したら全部めちゃくちゃ美味しくなる・・・
「そうか、これだ!」
頭の中でイメージが定着し、すぐさま作業に取り掛かる。
そう俺が作ろうとしているそれは・・・
か っ 〇 え び せ ん !
―非常食を作ろう
まず最初に農具を作る鍛冶屋の親父に頼み込んで平たい鉄板を二枚用意する。鉱石っぽいものならば、幾度となく腹を裂いたジャイアントワームの内容物の中からたくさん取れていたので、それを親父に全て託す。
「おい!これ・・鉄に、亜鉛・・それに銀まで・・お前これを一体どこで手に入れたんだ?」
俺は森を探索して岩場で掘り当てたなどと噓をついて誤魔化す。
「そうか、それで一体何を作って欲しんだ?クワか?それとも鎌か?」
「は?出来るだけ分厚い鉄板だぁ?それも二枚だと?そんなもん一体何に使うつもりなんだぁ?」
「あー・・・それは、新しい罠の素材で使おうと思ってさ、もっと大きな獲物を捕まえる為の」
「はぁ・・・まぁお前のソレは度々村の役に立ってるからいいけどよぅ、たまには親父さんの顔を立てて真面目に畑仕事に精を出せば、女房の一人や二人くらい・・・」
長くなりそうなので俺はすぐに話しを打ち切り、とにかく言った通りの分厚い鉄板を用意して貰う様にお願いした。
――あれから約一カ月後。
鍛冶屋の親父に呼ばれ、俺はよしきたと親父の元へ行くと・・・
「おお・・・・」
それは厚さ2センチほどの分厚い鉄板、大きさはA4サイズぐらいか、イメージ通りの立派な鉄板が二枚仕上がっていた。
「いや、最高だよ親父!これでかっ〇えびせんが作れるぞ!!」
「かっ・・・?なんだそれは?」
「いや、なんでもない、それでこいつはいくらになる?」
そう聞いた時、親父がいきなり俺の頭を小突いた。
「馬鹿野郎!圧倒的に鉄が足りねぇよ!!だからちょいとばかし次に用意してた物から拝借した。・・・この事は内緒にだからな」
「じゃあお代は」
「いらねぇよそんなもん、早いとこ持っていきな!」
何とも粋な親父である。俺はさっそく出来上がった鉄板を持って煎餅作りに取り掛かった。
さっそく材料を用意する。
蜂肉 1斤
ミミズ油 適当
小麦粉 適量
塩 少々
塩はこの日の為に大枚叩いて多めに行商人から仕入れてたので手に入れる事ができた。小麦粉は実家の方から少し拝借する。
まずは、蜂肉を細かし練り上げる。そこに小麦粉と塩を混ぜて粘りを加え、最後にミミズ油で全身をまんべんなくコーティングすれば、種は完成だ。後はこれを適当な大きさに手で伸ばし、適当な大きさになった所で・・・
熱々に熱した鉄板にバーーン!!と、じゃなくそっと置く。そしてもう一つの鉄板で挟み込み・・・手ごろな石を乗せ、さらにその上に俺も乗る。
こうして待つ事数十分。
しっかりプレスした鉄板を開くと・・・
「よし、全身黒焦げだが最初にしては上出来だ」
こうして俺は見事に真っ黒に炭化した煎餅を作る事に失敗した。食べるまでも無くこれは失敗作だった。
「まぁ後は試行錯誤すれば良い感じの煎餅になるだろう」
こうして有り余った蜂肉の有効活用を見出したのち、しばらくは只管、かっ〇えびせんならぬ、かっ〇ハチせんを作り続けることになる。
そして俺は今、一人でに黙々と街のはずれで煎餅を作っている。
「はぁ、異世界転生ねぇ・・・」
そんな時、後ろからひしひしと迫りくる圧迫感を感じる。こ、この感じはもしや・・・・。
「お前、こんな所で何をしている」
振り向くまでも無い、子供の頃から何度もどやされたその声の主を俺はよく知っている。
「お、親父・・・」
振り向くと、親父が仁王立ちで煎餅を焼くその姿を睨みつけていたのだ。




