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第3話 ―迷信と偏見―




「これ、本当に大丈夫なのかい? 呪われたりしないだろうねぇ?」


……もうこの台詞を聞くのも何度目か。


俺が定期的に大蜂を狩るおかげで、村中に大蜂の素材を使った品々が目につくようになった。だが、相変わらず心配性な婆さんは、記憶が途切れるたびに同じ台詞で心配事を呟いてくる。


実はこれでも大分マシになった方だ。


最初の頃は本当に酷かった。


「それにしても、こんなに大蜂を倒して、祟りにならないか……」


「大蜂の素材だと!? そんなもの、瘴気が纏わりついて恐ろしくて使えるか!」


そして、一番村人を困惑させたのが……


「「大蜂を食べるぅ!? お前は一体何を言っているんだ!?」」


そう、まさに最初の頃は偏見に偏見の嵐。俺はまるで悪魔の申し子のような目で皆に恐れられ、変人扱いされた。



前の世界でも、昔の時代には偏見や迷信はあった。


「~を食べてはいけない」

「~へ行ってはいけない」


そんなものから魔女狩りまで、迷信が生んだ悲劇は数多く存在する。


そのおかげで、何か変わった事をする度に、人は様々な反応を示すという訳だ。それが賞賛されるのなら、まだ良い。だが、それを理解不能なものと見られた時、その説明には本当に骨が折れる。というか、何度説明したって理解できないものは理解できない人もいる。


そんな絶望すら味わう事になるのだ。


とりわけ、親父などはまさにその典型だった。


俺のやった事を「村の恥」とまで言う始末で、母と兄弟が一緒になって俺を擁護したり、俺のしている事を説明してくれたりしなければ、俺はとっくの昔に村を追い出されていた事だろう。



本当に家族には感謝せねばならない。


だが、親父に関しては、もう何も言うまい……。


そんな訳で、素材を使う事による偏見は解除されていったが、虫食だけは相変わらず皆、目を背けている。前の世界でも昆虫食は気持ち悪いと感じる人が大多数を占めていたから、この拒絶反応は至極普通の事なのかもしれない。


あえてグロテスクに演出する事なく、しっかりと処理して肉として見てみれば、これほど美味しくて手軽に食べられる食材も無いのだけどなぁ。(もぐもぐ)



―でも、こいつは無理だ



そんな訳だから、俺が普段から狩るもう一つの獲物、『ジャイアントワーム』については、あえて村人達にも内密にしている。


ジャイアントワーム。それは大きなミミズ、そのままである。


地中に存在し、土を食い、その排出物によって土をより肥沃(ひよく)にし、良い土を育てる。益虫とまで言われてもいいはずなのに、そのあまりにもグロテスクな見た目のおかげか、見事に不快害虫として皆に嫌われている理不尽な生命体である。実は、ミミズが畑を肥やし、潤してくれる事は、農業に携わる者なら誰でも知っている。


ジャイアントワームが大量に出る土なら豊作は間違いない、とまで言われている。


だが、畑を耕す際に彼らは問答無用で掘り返され、駆除され、天日干しにされてカラカラに干からびた後、また土の中へ戻されるという、無情な最後を遂げる。なぜなら、ジャイアントワームが農作物を食べてしまうという迷信を、皆が信じてしまっているからだ。



俺が生きてきた中で、ミミズが農作物に手を出したり、その歯で食い尽くしたりするような事は一切なかった。恐らく、その見た目のせいで謂れのない偏見を受けた結果、そのような迷信が広まったのだろうと推測している。


人の役に立つものなのに、見た目が悪いという理由だけで駆除の対象になる。


人は見た物だけを信じるとは言うが、見たままだけで判断してはいけないものだってある。


この時、俺はその事を改めて心に刻んだのだ。



そんなミミズなので、その中身もまぁまぁグロテスクであり、さらに内臓の中には溶解液とも思える、黄色くて異臭を漂わせる液体が溢れかえっている。


触ると皮膚が爛れてしまうので、解体には少しコツがいる。最初の頃は、よく水ぶくれになったものだ。


土を食うので、当然ながら胃の内容物は泥まみれになる。しかし、その内容物を消化しているからなのか、ミミズの胃の中には研磨された綺麗な石が多く含まれており、宝石と言ってもいいほどに美しく輝く。(尤も、これが何かと言われると答えに困るので村人たちには伏せているが)


そして、さらに素晴らしいのが、その脂身の多さである。


臓器を処理し、後はその肉を絞るだけ絞るのだが、そこから脂が出るわ出るわ。一匹のミミズから桶一杯分の脂が取れるのだから、その油分がどれだけ膨大なのかは推して知るべし。


そして、ここまでしっかりと脂身を取ってもなお、その肉はまるで豚肉のようにジューシーで香ばしく、美味しいのである。


ただ、大蜂の倍以上に臭いが酷いので、これは人を選ぶ味だという事だけは付け加えておこう。


そういう訳で、俺のルーチンワークはこの二つの獲物をもって安定を約束されているのである。ちなみに、ミミズから取れた脂身は松明の燃料に重宝するので適当な理由を付けて村人たちには供給している。




そして、この二つの素敵な素材を使ってとある物を作るのだがそれはまた次に話そう。


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