第2話 ―最も蜂を愛した男―
「モンク、やってみたら?」
おじさんの話によると、モンクの条件とは――。
モンク:己の体一つで魔物を打ち倒す者。
と、言う事だそう。
えっ? これだけ? と聞いてみると、本当はモンク僧となって厳しい修行を積んだのちに、という前置きがあったらしい。しかし、ほとんどの地方ではそんな修行場もなければ指導者もおらず、さらに言えば、そもそも門下生さえろくに集まらない。
そのため、この条件は一部の地方を除いて削除されたようだった。
「人気ないんだよな、モンク」
前に述べた職業の中でも断トツで不人気な理由。
それは、役に立たないからだった。
先に誤解を解いておくと、モンクそのものは決して弱くない。俊敏な動きから繰り出される攻撃は凄まじく、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」という格言もあるらしい。
ただし、それは元々強い人間だということが前提にある。
何の経験もない人間がいきなりモンクを名乗ったところで、中身は普通の人間だ。戦士なら、仮に初心者だったとしても武器と防具の恩恵がある。最低限、前衛として貢献することはできる。
だが、モンクはその限りではない。
己の肉体だけで戦う以上、何の鍛錬もしていない人間が名乗ったところで、ただの素手の人間に過ぎないのだ。
冒険で役に立たない。
ということは、当然ながら一緒に冒険する仲間もできない。かといって、一人で危険な仕事を引き受けることもできない。
条件を緩くしたのはいい。
だが、おかげでその存在意義さえもなくなりかけている職。
それが『モンク』なのだ。
――だが。
その職は、まさに俺のためにあったかのような、運命の出会いだった。
何故なら俺は、以前からギルドに出されるとある仕事をほぼ専売特許にしており、その仕事に関しては既に自分なりのルーチンも確立している。
つまり、仕事はある。
税も納められる。
そして何より――。
俺は、職業を名乗ることができる。
それが『モンク』なのだ。
モンク。
それは、職を名乗れず困窮する特定の人間――つまり俺のような人間が、とりあえず名乗っておける救済職だったのである。
―そうと決まれば早速仕事だ
モンクになった翌日、俺は何時ものようにギルドへ行きいつものように、ある仕事を引き受ける。それは・・・
『ジャイアントビーの討伐』である。
ジャイアント・ビー
この辺りではほぼどこでも見かける大型の肉食昆虫。
例えるならあの凶悪なスズメバチが大人の拳二つ分程巨大化したような獰猛な蜂だ。普段は森を縄張りとしてそこで巣を形成しているが、餌が不足すると村の方までやってきて収穫物や家畜、時には幼い子供やお年寄りなども襲う。それでなくても、畑仕事の時に襲われる事もあり、放っておくと非常に危険な蜂なのだ。
だが、この村においてその被害は皆無、
なぜならずっと俺が倒してきたから。
そのおかげかこの村でジャイアントビーに襲われたと言う話はめっきり減り、俺はほんの少しだけ村の人から尊敬されているのだ。
では、一体何故ジャイアントビー(これより大蜂と呼称)を倒せるまでに至ったのか、それはその習性をよく観察していたからだ。奴らが現れる時、必ずと言っていい程最初は一匹で現れる。そして周りを物色するようにフラフラと舞い、獲物を見つけると何故かすぐに他の蜂たちも現れて一斉攻撃を行っていた。俺はその方法が大蜂が仲間に知らせるべく特定のフェロモンを発している事にすぐ気が付いた。何故なら、サバイバルの関連動画で何故か養蜂家の方がスズメバチを撃退する動画を見た事があったからである。
動画によればフェロモンには助けを呼ぶという『警戒フェロモン』というものがあり、その習性を利用すれば大蜂を一網打尽に出来ると考えたのだ。
その前にはまずあの大蜂を一匹捕まえる必要があったのだが、普通に近づいても返って危険である。なにせあの凶悪な毒針に刺されるとほぼ助からないとまで言われているからだ。
そこで俺はある方法を思い出す。
そう、粘着マットである。
前の世界で確立された対スズメバチ用の最終兵器とも言えるアレである。俺は森にも精通していた為、あの恐ろしく粘っこくて一度くっついたら何があっても取れない、藻掻けば藻掻く程身動きが取れなくなるあのネバネバを作れる自信があった。森でたまたま見つけたとある生き物の分泌物がそれに相当するのだ。後はそれを大量に作り、何度か自分で実験し、薄い板を作り、その板に粘着物を塗ってハエ叩きの要領で素早く斥候の大蜂を捕獲する事に成功した。
ここまでくればあとはさらに大きな板を用意し、そこに粘着物を塗りたくり、大蜂をセットして待つだけである。すると、瞬く間に大蜂が集まり、その粘着物の罠にはまっていく。気づけばそこには大量の大蜂達が阿鼻叫喚の如くもがき苦しんでいた。これが俺が確立した一つの大蜂討伐方法である。
―蜂達のその後
冒険者による納税は、定住者と放浪者で扱いが分かれてくる。
放浪者、つまりフリーで国中を旅する冒険者は、なんと税が大幅に免除される。具体的に言えば、仕事の報酬から税は差し引かれるものの、月々これだけの税を納めなければならないというノルマが無い。
逆に定住者には納税のノルマが課せられる。
例えば、大蜂は一匹につき銅貨一枚の報酬が出る。そこから税が差し引かれるわけだが、一カ月の間に納めた税が定められたノルマを超えていれば、無事に納税義務を果たしたとみなされるのである。
ギルドには蜂の体の一部を提示すれば良いので、一番使い道の無い頭部を差し出し、後は加工用にすべて回収する。
蜂の外殻は非常に丈夫で軽いので、そのまま入れ物にしたり、防具に加工されたりと使い道は多い。その大きな羽も工芸品として加工すれば、アクセサリーとして売れたりする。
だが、一番肝心なのはそのぷりっぷりのお肉である。
初めてそれを食した時、俺はあまりの美味さに驚いたのを今でも覚えている。とにかく筋肉質なのに海老の身のようにプリプリで、火を入れても固くならない。食べてみると、まるで鳥のササミのようなうま味がぎゅっと口の中に溢れてくるのだ。これがたまらない。
ただ一つだけ欠点を挙げるなら、臭みがあるので香草などを足して臭みを消す必要があるくらい。
正直、ギルドの報酬だけではとても暮らして行けるものでは無い。
だが、このような副産物及び食料を確保する事で、俺は晴れてこの村で生きる事が出来るのだ。
しかし、物事は必ずしもいい事ばかりでは無い。
次は、俺がこの世界で受けた『洗礼』について話そうと思う。




